身体完全同一性障害について

*「身体完全同一性障害」は、摂食障害自傷行為における身体像の問題を考える上で、たいへん示唆的な障害です。身体が、神話的世界への融即(participation、神秘的な同一化のこと)を完全に失った状況下で、私の言う「ゲリオン化した身体」を前提として生じる障害ではないでしょうか。身体が神話的世界への融即を完全に失えば、「標準体型であること」、さらには「五体満足であること」を「健康」、さらには「ありがたいこと」と感じる根拠はなくなります。


1.自分の四肢を切断したい人々:BIID症候群と「脳と精神」 http://wiredvision.jp/news/200907/2009071623.html より転載
「身体完全同一性障害」(BIID:Body Integrity Identity Disorder)
この障害を持つ患者は、四肢の1本かそれ以上を切断したいとの願望を口にするが、その理由は、それらが自分の体の一部だとは思えないからだという。

(中略)

この障害については、このような精神状態が脳の生理的状態によって引き起こされるのか、それとも因果関係が逆なのかについて、精神医学の世界と神経科学の世界で議論の的となっている。両陣営とも、最近の研究によって新たな裏付けを得ており、生物学的現象と心理学的現象を切り離すことの難しさが浮き彫りにされている形だ。

(中略)

BIIDは、広い意味では自傷行為に含まれると見られるが、BIIDを扱うサイトの解説によると、「BIIDは性同一性障害と最も近い類似性を見せ、またその共通点として、幼年の頃からそうした自身の身体に対する違和感を感じる」「(4歳から5歳ころ)明確な記憶として初めて四肢切断者を見たとき、自身の身体をそれに近づけたいという強い欲求を抱く」「四肢が全て揃っていることに対して、"不完全性"を感じ、逆に四肢が切断された状況に"完全性"を見出す」などのケースがあるという。


四肢切断を熱望する人々 - 身体完全同一性障害とは
http://x51.org/x/05/03/2551.php
四肢切断を望む人々 ― 身体完全同一性障害とは(2)
http://x51.org/x/06/04/1009.php


コロンビア大学のMichael First教授(精神医学)は、この障害の「発見」において先駆的役割を果たした1人だ。同教授の最新の研究では、ある種の精神障害の人は、身体障害を持つことに固執するようになり、BIIDはその一類型にすぎないことが示唆されている。

その一方で、カリフォルニア大学サンディエゴ校のPaul McGeoch氏による最近の研究は、BIIDを、右頭頂葉の機能不全から来るまったくの神経疾患として説明しようとしているようだ。

脳のこの部位は、[自分の体の構造や機能、大きさなどのイメージについての]「ボディマップ」(「脳の中の身体地図」)をコントロールしていると見られている。同氏の研究チームが、機能的磁気共鳴映像法(fMRI)を使って、BIIDを自己申告した4人の患者を検査したところ、患者が切断したがっている身体部位を触っても、患者の右頭頂葉に反応が起きないことが確認された(一般の人の場合には右頭頂葉に反応が見られる)。

McGeoch氏と共に論文を書いた大学院生David Brang氏は、「この現象は心理学的な問題だと考えられて来たが、神経的な問題であることが明らかになった」と語っている。

これに対してFirst教授は、fMRI研究の重要性を無視するわけではないが、このことをBIIDの原因とする見方には異議を唱えている。「McGeoch氏の観察したものは、精神疾患が脳に及ぼした影響にすぎない」とFirst教授は言う。


*四肢切断に加えて、眼球の片方を摘出して義眼を入れることを希望する人たちもいるようです。このことから、少なくとも単なる器質性の障害とみなすことには無理があると思われます。


2.ボディーイメージの障害◇拒食症のボディーイメージの障害について
 http://www.overcome-ed.net/w-ed/w-syojyo-bodyimage.html より転載
 
摂食障害患者さんは、自分の身体像の捉え方に歪みがある場合が多いと考えられています。
自分の身体像とは、自分がどういう体型をしているか、などの自分自身の見た目に対する客観的なイメージのことです。
自分の身体像を正確に認識できないことをボディーイメージの障害といいます。
このボディーイメージの障害は、摂食障害患者さんのもつ重大な症状のひとつで、特に拒食症患者さんによくみられます。

拒食症患者さんは、自分の体型がやせ細っているにもかかわらず、それを正確に認識でないことが多くあります。
細いものを細いとは思えず、細いものも太く見えてしまうのです。
周囲から見れば、明らかに細すぎるものが、本人にとってみればちょうどいいように感じます。
体重の数値は低い状態にあることは分かっていても、見た目には太く感じてしまいます。

ただ、自分でもある程度は痩せすぎているのではないかと理解できている人もいます。
しかし、「今のままがいい」「もっと痩せたい」という気持ちが強いので、周囲には「私は痩せていない」と主張する場合があるのです。

拒食症患者さんを持つ家族、周囲の人は、拒食症患者さんがあまりに痩せすぎているので、「とにかく食べさせたい」と思い、拒食症患者さんの「自分は痩せすぎていない」という考えを変えようと説得すると思います。
ですが、これは「あなたは痩せすぎている」「いや、私は痩せてない」という押し問答に終わってしまいます。
お互いが持つ体型に対する判断のものさしが違っているので、お互いが、お互いの考えを理解し合うことは大変難しくなっています。

このようなボディーイメージの障害は、本人が摂食障害から立ち直ろうとする意欲の妨げとなってしまったりして、治療の上でとても大きな障害になってしまうことがあります。