摂食障害、治療身近に
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013100602000110.html より転載
摂食障害 治療身近に 支援センター全国整備へ
若い女性に多い「摂食障害」の治療を充実させるため、厚生労働省は来年度、全国に治療や研究の拠点となる支援センターを十カ所程度整備する方針だ。患者数が増える一方、専門医は限られており、適切な治療を受けられずに苦しむ患者は多い。センターから専門医以外の医者にも治療法などを発信することで、治療のすそ野が広がることが期待されている。 (小林由比)
「『どうにかしてあげたいけど、ごめんね』と(心療内科の)先生から言われた時は、もう病院はいいやという気持ちになった」。そう話す千葉市に住む女性(37)は二十歳のころ、寮生活の人間関係のストレスをきっかけに食べても吐いてしまうことを繰り返すようになった。
五年間、アルバイトをしながら心療内科などを転々としたが、胃薬などを処方されるだけで改善しなかった。ある医師からは「育て方が悪い」と言われ、母との関係もぎくしゃくするように。その間に体重は十キロ減り仕事も続けられなくなった。
その後、ようやく専門医がみつかった。それまで「摂食障害」との認識すらなかった。点滴で栄養を補いつつ、食事指導やカウンセリングを続け、約十年かけて少しずつ回復し、現在は食生活も改善し、日常生活を送れるまでになった。「知識のない医師も多い。最初の段階で、適切なケアを受けることができていれば」
摂食障害の正確な患者数は厚労省も把握していないが、同省の研究班が京都府の女子高生を対象に一九九二年と二〇〇二年に実施した調査では、十年間で拒食症は倍増、過食症は五倍に増えていた。
八七年から千五百人以上の患者を診てきた政策研究大学院大学の鈴木真理教授は、高校生女子や成人女子の有病率から「数万人に上る」と推計している。
だが、摂食障害の専門的な治療ができる医師は全国で百二十〜百三十人ほどだ。専門医がいる病院に患者が殺到し、受け入れきれない状況もある。
計画では、専門医のいる病院などを支援センターに指定。相談員などを配置し、地域の医者との情報交換などにあたる。データ集約など研究の拠点となる機関も一カ所設ける。厚労省は来年度予算の概算要求で相談員の人件費など四千四百万円を計上している。
鈴木教授は「患者さんは物事を一生懸命考えまじめな人が多い。ストレスに対応する技術を上げるなど、家族も含め丁寧にかかわらなくてはならない病気だ」と指摘する。早期に専門医の適切な対応を受ければ、大部分は回復するという。
◆来月には初の「ウィーク」 1日にシンポジウムも
摂食障害への公的支援を求める専門家らでつくる「摂食障害センター設立準備委員会」は今年初めて、「摂食障害ウィーク」(11月1〜8日)を定め、各地でイベントを開く。11月1日には、摂食障害の経験者である作家の柳美里(ゆうみり)さんをゲストに「摂食障害治療はどう進むべきか」と題したシンポジウムを神戸市内で開く。申し込み不要、入場無料。詳細は同委ホームページで。
<摂食障害> 食べる量が極端に減ったり、食べては吐くを繰り返したりする「神経性食欲不振症(拒食症)」と、発作的にむちゃ食いを繰り返す「過食症」がある。拒食症では栄養失調などの合併症による死亡率は7〜10%と高い。やせていることを礼賛する風潮を背景にダイエットもきっかけになるが、人間関係などのストレスに耐えきれず防衛反応としてやせることにのめりこむうちに重篤化するケースも多い。