ホームレスと精神疾患

mixiニュース(←「毎日新聞」9月2日号)からの転載です。

http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=949116&media_id=2

 路上生活者の6割以上がうつ病統合失調症など何らかの精神疾患を抱えていることが、東京の池袋駅周辺で精神科医らが実施した実態調査で分かった。国内でのこうした調査は初めて。自殺願望を伴うケースも目立ち、調査に当たった医師は「精神疾患があると自力で路上生活から抜け出すのは困難。状態に応じた支援や治療が必要だ」としている。【市川明代】

 国立病院機構久里浜アルコール症センター(神奈川県横須賀市)の森川すいめい医師らが昨年末〜今年1月上旬、池袋駅周辺で路上生活者の支援に取り組むNPO法人「TENOHASI(てのはし)」(清野賢司事務局長)の協力を得て実施。駅1キロ圏内に寝泊まりする路上生活者約100人に協力を求め、応じた80人を診察した。

 それによると、うつ病が40%、アルコール依存症が15%、統合失調症など幻覚や妄想のあるケースが15%。複数の症状を発症しているケースもあり、不安障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)なども含めると63%(50人)が何らかの精神疾患を抱えていた。失業してうつ病になったり、疾患が原因で職に就けないなどの理由が考えられる。重症者は調査に応じられないため、実際はより高い割合になるとみられる。

 一方、約半数が「死んだほうがいい・死んでいたらよかった」などと考え、「自殺リスク」があることも判明した。路上生活歴は平均5年8カ月だったが、6カ月未満が20人で最も多く、森川医師は「公園や河川敷と異なり、家を無くしたばかりの路上生活者が多く、自殺につながりやすい」と懸念する。

 森川医師によると、精神疾患を抱えると、▽自分には生活保護を受ける権利がないと思い込む▽自ら福祉事務所に相談に行けない▽福祉事務所の職員と話がかみ合わない−−などの理由で路上生活から抜け出すのが困難になるという。

 森川医師は「国は精神科病床の削減を進める方針で、精神疾患を抱える路上生活者が増える可能性もある。専門性の高いケースワーカーの育成が急務」と指摘する。

 調査メンバーは今後、路上生活者の中に数多く含まれるとされる発達障害や知的障害についても調べる。

 ◇【解説】新政権は早急に対策を

 路上生活者の6割が精神疾患を抱えている実態を指摘した今回の調査は、国に支援策の見直しを迫るものだ。

 国の最新調査(09年1月)では、全国の路上生活者数は前年比1.6%減の1万5759人。自治体の大半が日中に職員が目視で人数を数えているが、路上生活歴が短い場合、一見して分かりにくいうえ、深夜の駅周辺に寝場所を確保する傾向があり、「今の調査方法では実態がつかめない」との批判が出ている。7月の完全失業率は過去最悪の5.7%を記録し、路上生活者がさらに増える可能性がある。

 行政側の従来の路上生活者支援は、ケースワーカーが短時間面接し、一時保護施設にあっせんするなどして終わるケースが多かった。

 しかし、短期間で一時的な支援では、精神疾患の有無を把握することは困難。路上生活者を減らすためには、ケースワーカーが繰り返し当事者に接触し、必要に応じて医療につなげるシステムづくりが不可欠だ。何よりもまず新政権は、路上生活者と精神疾患に関する全国規模の調査を行い、実態を把握する必要がある。【市川明代】