自助グループと宗教界

信田さよ子さんの「カウンセリングで何ができるか」(大月書店、2007年)に、次のような指摘があります。

 AA(熊田註;アルクホーリクス・アノニマスアメリカ生まれの断酒のための自助グループ)のミーティングの特徴は、「言いっぱなし、聞きっぱなし」にあります。そうでない方法を用いているAAのミーティングもあると聞きますが、日本ではほぼこの方法が実施されていると考えていいでしょう。誰かが中心になって指導するのではなく、グループに向かってハイアーパワー(自分を超える力)を信じて自分を語るのです。この独特のスタイルが、他のメンバーへの言及を防ぎ、グループ内での傷つきや摩擦を防止しているともいえます(p107)。

 事実上のキリスト教国家であるアメリカの場合、「ハイアーパワー」は事実上キリスト教の神のことを指します。アメリカのAAには、キリスト教の教会に付属した性格矯正機関としての側面があります。しかし、アメリカのキリスト教のような強固な一元的宗教伝統をもたない日本でAA式の12ステップ(回復のための祈り)を用いた自助グループを運営するのは、一工夫必要なのではないでしょうか?日本人の、神や仏のような超越者の存在に対する信仰は、ほぼ年齢に正比例して上昇します。つまり、日本の若年層では、神や仏を信じる人は少数派なのです。そういう状況で、確固たる宗教的世界観をもたない若者がいきなりAA式の12ステップを用いて自助グループを運営しようとすると、雨宮処凛さんが小説「EXIT」(講談社、2003年)で描いたような、グループの暴走やグノーシス主義への接近が生じる危険性があると思います。日本でAA式の12ステップを用いた自助グループを運営するには、何らかの形で宗教界との連携が必要だと思います。

 最近では、ガン患者や不登校の親などの自助グループも生まれており「21世紀は自助グループの世紀だ」と言われています。専門家は専門家として、医療は医療として発展を遂げてきましたが、同時に医療ではどうしようもないものが残り、それがはっきりしてきました。その限界を突破するために、当事者同士が生活に密着したグループを作って、お互いを支え合っていくことになるでしょう(同上、p108)。

 21世紀が自助グループの時代だとすれば、なおのこと、自助グループと宗教界の連携は不可欠でしょう。