押井守と現代人の孤独

私見では、アニメ『天使のたまご』(1985)は、押井守の最高傑作です。精神科医サリヴァンが人間の精神的発達にとって決定的に重要であるとした「前思春期の親友関係」とそれが可能にする親密性の欠落した若者の孤独な心象風景を見事に描いています。登場する少年と少女の間には、性的関係が暗示されていますが(少年が乗って現れてくる戦車は、明らかに男性器を模しています)、2人の間に親密性はありません。親密性なしに、性的関係が結ばれるのです。「性の侵入」が早期化して「前思春期の親友関係」とそれが可能にする親密性が危うくなっている先進国の人間の孤独感を、見事にアニメ化していると思います。