「男のなかの男」が「自殺」したとき

 いずれにしても、中川元大臣が亡くなった後のメディア報道にはつくづく失望させられました。中川元大臣の死は、アルコール問題について国民に広く啓発し、治療によって回復しうる病気であることを広く知ってもらうには、絶好の機会だったはずでした。昔から専門家のあいだでは、未治療のアルコール依存症者の平均寿命は五二歳であり、アルコール依存症自体が「緩慢な自殺」とか「慢性自殺」とかいわれてきました(Menninger,1938)。中川元大臣の早すぎる死を説明するには、それだけでも十分であったはずです。
 しかし、私が知り得た限りでは、そのような報道はひとつもありませんでした。報道はもっぱら「惜しい政治家をなくした」「彼は男のなかの男であった」という趣旨のものに終始していたのです。私は、「この国には、アルコール依存症という「否認の病」を「否認」する構造がある」と感じないでいられませんでした(松本俊彦『アルコールとうつ・自殺ー「死のトライアングル」を防ぐためにー』(岩波ブックレット、2014年、p71)。


*確かにそうでした。