動く/動きまわる/静止する

『ユープケッチャ』とは体長1センチ5ミリ程度の昆虫で、自分の糞を餌にしているので移動する必要がないため足は退化して一本もない。長くて丈夫な触角を使って体を回転させながら食べ、食べながら脱糞し続ける。食べる速度がきわめて遅いためその間に繁殖したバクテリアが糞の養分を再生産してくれる。夜明けとともに食べ始め、日没とともに食べ終わり眠りにつく。頭をつねに太陽のほうに向けているので(時計虫)とも呼ばれている。

ユープケッチャという名前は作中の架空の昆虫であり安部公房のとてもチャーミングな創作物である。

「いくら移動を重ねても、ただ動きまわるだけでは本当に動いたことにはならないのだ。肝心なのは静止の心である。ユープケッチャはある哲学、もしくは思想を表す記号だと思う。」


*やはり、安部公房の文章はかっこいい。「ユープケッチャ」は、研究生活のメタフアーとも解釈できると思います。学術論文とは、さしずめ「ユープケッチャの糞」でしょう。