「摂食障害」あまりに酷い治療態勢

http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=133&id=2698257&from=home&position=2 より転載
摂食障害」あまりに酷い治療態勢…柳美里氏「血を吐いた」


 やせたいという願望やストレスなどをきっかけに引き起こされる拒食症や過食症などの摂食障害。国内の患者数は2万人以上と推定されている。だが治療体制は整っておらず、患者は専門医を探し回り、数少ない治療機関に殺到するといった事態が続いてきた。そこで専門医たちが公的な専門治療機関の設立を求めて声を上げ、厚生労働省も先月、来年度から全国に治療の拠点となる医療機関を10カ所程度、指定することを決めた。専門的な治療はもとより、早期治療や予防啓発などが期待されている。(安田奈緒美)


 ■「やせる」はSOSのサイン


 作家の柳美里(ゆう・みり)さん(45)は、摂食障害に苦しんだ経験のある一人だ。今月1日、神戸市内で開かれた摂食障害を考える講演会に出席し、体験を語った。
 兆候は周囲からの孤立感を感じていた中学生のころ。20代に入ると症状が顕著になったという。「最初はサラダとジュースだけをとって過ごしていたのが、だんだん食べなくてもいいんだという気持ちになった。やがて胃がキリキリ痛くなり喀血(かっけつ)しました」
 劇作家デビューし、小説家としても注目されていた時期だったが「小説や戯曲が評価されても自分が置き去りにされたような気がしました。やせるというのは分かりやすい変化で、今から考えると、周囲に心配してほしい、見てほしいという表現だったのかなとも思います」と振り返った。
 摂食障害で悩む当事者や家族の自助グループ「NABA(ナバ)」(東京都世田谷区)の事務局長、高橋直樹さん(30)も摂食障害の経験者だ。家族問題に悩み、拒食症から低体重となり、20歳で入院した。身長176センチだがその当時の体重は30キロを切っていた。「あのとき受け入れてくれる病院、相談に乗ってくれる人がいなければ死んでいたのだろうと思う」と高橋さんは話す。


 ■死亡率7〜10%


 食べない、または逆にむちゃ食いしながら下剤を使うなどして無理に排出し低体重になる拒食症や、むちゃ食いをくりかえす過食症などの症状に代表される摂食障害心理的な要因で起きる障害で、栄養失調や自殺などで亡くなるケースもあり死亡率は7〜10%とされている。従来、若い女性の病気という印象も強かったが、男性の患者もおり、年齢層も小学生から中年まで広がっている。
 日本はアメリカ、イギリスと並んで患者数が多いといわれる。しかし、海外に比べ、治療体制は不十分なままだ。「低体重で病院に搬送されても、専門医がいないため病院側が戸惑い、受診制限することもある。極端な栄養失調の処置の仕方が分からないのです」と話すのは、摂食障害の治療に詳しい、神戸女学院大学名誉教授で浪速生野病院(大阪市浪速区)心身医療科部長の生野照子さん。
 専門医が不足している上に、じっくりと患者の話を聞くことが治療の基本になるため時間がかかり、数少ない専門医や医療機関に患者が殺到する。また、内科や精神科、心療内科の診察が必要になるなど、複数科にまたがることもあるため、患者にとっては負担が大きい。


 ■早期治療を


 そこで、生野さんを中心に、医師、研究者、文化人らが平成22年、「摂食障害センター設立準備委員会」を発足。日本における公的な専門治療機関の設立を目指して活動を続けてきた。
 機運が高まる中、国も動き出した。先月、厚労省が来年度予算の概算要求に摂食障害の医療体制を強化するために4400万円を盛り込み、全国に10カ所程度の支援センターを指定し患者の治療機会を増やす方針が明らかにされた。
 生野さんは「厚労省に協力して私たちも専門家として治療モデルなど情報提供したい。早期に治療すれば治りも早い。予防や早期治療のための啓発も行いたい」と話している。


 ◆…世界でも摂食障害の有病率が高いとされているのが、イギリスとアメリカ。イギリスではダイアナ妃が、アメリカでは人気デュオ「カーペンターズ」のカレン・カーペンターが長期にわたって患っていたことが知られており、両国では摂食障害に対する認識が広まっている。日本でも最近では、映画「ストロベリーショートケイクス」(平成18年、矢崎仁司監督)「クワイエットルームにようこそ」(19年、松尾スズキ監督)などで取り上げられるなど、患者数の増加とともに病気への関心が高まっている。