人類史のなかの男の言語・女の言語

(前略)チンパンジーやゴリラが一日のうちの長い時間を毛づくろいしながらすごすように、初期人類は彼らの原初的な言語を、ムダ話を楽しみ、あるいは、気のきいた挨拶を交わして緊張を解消し、棒で殴り合うかわりに言葉で殴るといったことのために使うのである。
 そういった言語がやがて適応的な意味を持つようになったのは、生まれ故郷の熱帯を離れ、狩猟に大きく頼って暮らし始めた人類の歴史の後期になってからのことであろう。その後の人類史において、「仕事をする言語」はしだいに成長し、そしてついに現代日本の社会では、「安全保障の言語」が「仕事をする言語」のあまりの肥大膨張と過大な評価によって、急速にその力を失いつつあるように思える。教室や家庭における暴力が社会問題化しているが、「安全保障の言語」の衰退の徴候と読めはしないだろうか(西田正規『人類史のなかの定住革命』講談社学芸文庫、2007年(初出1986年)、pp.256-257)。


*「仕事の言語」を「男の言語」、「安全保障の言語」を「女の言語」と言い換えれば、「女の言語」のほうがより「原初的」なのでしょう。