ツボと経絡と人類の進化

 そうすると今まで話してきた、気の鍼を使って、ツボに向かって刺していってやるというのは全部錯覚で、実際はたたツボから「治療してほしい」という気が出ていてチュチュッといじるだけでいいんじゃないかと思ったの。最近そう思ったの。なぜそう思ったのか。それは、いちばん最初に話しましたが、鍼灸師の先生が「ツボのところをノミや蚊やダニが食うんですよ」と言ったでしょ。それで、本当はツボから立ち上がる邪気が、ノミやダニを誘惑して呼び寄せているんではないか、と考えたんです。そう考えると話がまとまる。
 スマトラオオコンニャクという世界一大きくて、臭い花があるよな。肉の腐ったような臭いがして、それに寄りつくようなハエを呼び寄せて、花粉を運んでもらう。それと同じで、治療してほしい“気”が引き寄せているんじゃないか。
 もしそうだとすると、長い長い進化の歴史のなかで、ノミや蚊やダニと共存することによって健康を維持するという働きが発達して、それがこの経絡のような動きになってきたのだとしたら、壮大な話で、すごいじゃない。今、そうじゃないかなと思っているの(神田橋條治「ツボと経絡」『神田橋條治/精神科講義』創元社、2012年、pp336-337)。


*ありそうな話です。現代の先進国がノミや蚊やダニを排除したことには、伝染病を激減させた反面、健康にマイナスの側面もあったのかもしれません。