石器時代の「結婚の条件」

 私はもちろん中井久夫さんのような天才ではないし、中井さんほど極端なタイプではないけれども、中井さんのいう「S(統合失調症)親和者」のひとりだと思います。「徴候読み取り能力」(アンテナ能力)にいささか優れる反面、「疲れやすく、不意打ちには弱い」タイプです。中井さんは『分裂病と人類』で、「S親和性」には環境的因子だけではなく遺伝的因子も関係しているのに、なぜ進化の過程で淘汰されなかったのか、考察しています。
 先日NHKでアフリカの狩猟採集民・ハッザ族の人々の生活のルポを視聴して、中井さんのいう通り、「S親和者」は「石器時代」(人類が約20万年前アフリカで誕生し、約1万2千年前に農耕を始めるまでの長い期間)には生存に有利だったのだと思いました。ハッザの人々は、東京都の約2倍の面積に約1000人が分散して暮らし、男性は狩猟を、女性は採集を担当しています。弓矢を用いた彼らの狩りでは、獲物の「徴候を読み取る能力」が決定的に重要なことがルポでわかりました。また、女性たちは、男性に求める結婚の条件として、口を揃えてまず第一に「狩りの能力」を挙げていました(第二に性格、第三にルックス)。長い石器時代に、S親和者の遺伝的因子は、人類の間に大いに広まったのでしょう。番組では、「ハッザの人々は1日に5時間『しか』働かない」とさも楽をしているかのように解説していましたが、1日に5時間が、「徴候読み取り能力」を駆使できる限界なのではないでしょうか。