薬の副作用

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=37373 より転載
うつ治療を問う(4)薬の副作用 性機能障害


 慶応大学病院(東京都新宿区)の精神・神経科外来で、昨年暮れ、40歳代の会社員の男性が意を決した表情で口を開いた。
 「実は、妻との関係がよくなくて……」
 男性はその1年半前、多忙な仕事に追われる中で、うつ病を発症した。出社は続けたが仕事に身が入らず、簡単な作業にも時間を要した。診療所で薬物治療を続けた後、同病院を受診して半年たっていた。
 同科専任講師で主治医の渡邊衡一郎さんが詳しく事情を聞くと、男性は「性機能障害になった」と明かした。治療で気分の落ち込みは軽くなり、妻と性行為ができるようになったが、射精に至らない。何度も続くうちに、妻は「私に飽きたの?」と嘆き、会話が少なくなったという。
 渡邊さんは、抗うつ薬の副作用と判断。「薬の調整で対処できます」と伝えると、男性は霧が晴れたような笑顔を見せた。
 重い副作用は少ないとされる抗うつ薬でも、実は、患者の精神的負担を増やしかねない副作用が高頻度に起きることがわかってきた。
 渡邊さんと、同科医師の菊地俊暁さんが2008年、過去2年間にうつ病と診断され、抗うつ薬を服用した男女1187人を対象に行った調査では、男性の射精障害や女性の性的感覚の衰えなど、性機能障害の発生が27・3%にみられた。だが対処法がなく、「我慢している」との回答が目立った。
 このほか、眠気48%、口の渇き39%、けんたい感34%、便秘29%、吐き気・めまい・体重増加が各22%など、副作用が多く起こっていた。
 菊地さんは「眠気や口の渇きもよく起きる副作用だが、気分転換や水を飲むなどで対処できる。しかし性機能障害は薬のせいだと気づかないことが多く、もしやと思っても医師に尋ねにくい。多くが放置されてしまっている」と訴える。
 うつ病患者は、「私は役に立たない」「愛されていない」と考える傾向が強い。治療では、うつ症状を薬で和らげながら、カウンセリングで考え方を修正するが、薬の副作用で性機能障害が起こると、家庭で孤立感や無力感が深まり、うつ病が悪化する恐れがある。
 会社員の男性は、医師の指示で薬の量を減らしたところ性機能障害が回復した。抗うつ薬による性機能障害は、薬の量を減らしたり、別の種類の薬に変えたりすることで改善することが多い。
 渡邊さんは「医師の側からも性機能障害は尋ねにくいが、さりげなく聞き取って対処することが大切。それで患者との信頼関係が深まり、治療がうまく進むことが多い」と話す。
(2011年2月28日 読売新聞)