診断は本当か

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=37466 より転載
うつ治療を問う(5)針で回復 診断は本当か


 東京都の50歳代の女性会社員は5年前、精神科でうつ病と診断された。きちょうめんな性格が管理職になって強まり、部下の仕事に細かく口を挟んだ結果、職場で孤立したことが心の不調のきっかけだった。
 薬物治療を受けたが、仕事への意欲は戻らず、休みがちになった。抗うつ薬抗不安薬抗精神病薬が増えていった。
 3年前のある朝、頭が前に傾いたまま上がらなくなった。整形外科の検査では骨や筋肉に異常はなく、診察した医師は「精神科の薬の影響」とみた。
 「首の筋肉をほぐしたら楽になるのでは」。知人に勧められ、針きゅう院の蓬(ほう)治療所(東京都杉並区)へ行った。所長の戸ヶ崎正男さんは、背中などのツボに温きゅうを施し、首などに浅く針を刺した。
 数回通うと、頭が上がるようになった。以後も「心身の心地よさ」を味わうため、定期的に通った。次第に活力が戻り、薬に頼る気持ちが薄らいだ。今では薬はほとんど必要なく、職場の人間関係も修復して、元気に仕事をしている。
 東洋鍼灸(しんきゅう)専門学校(東京都新宿区)副校長の松田博公さんは「針きゅうには心身をリラックスさせる効果はあるが、精神疾患を治すわけではない。ただ最近は、心の不調を安易にうつ病と診断するケースが増えているためか、針きゅうで良くなる『うつ病』が目立つ」と話す。
 歯科治療が回復のきっかけになった人もいる。東京都の40歳代の主婦は4年前、ひどい頭痛や肩こりから、不眠、意欲低下に陥り、精神科でうつ病と診断された。薬は効かず、孤立感が強まり、発作的に電車に飛び込もうとしたこともあった。
 昨年、歯科で虫歯の治療を受け、全ての歯でしっかりかめるようになると、頭痛や肩こりが減った。心が晴れやかになり、間もなく精神科の治療が必要なくなった。治療した歯科医は「虫歯などで片側の歯でばかりかむと、頭や首の筋肉が緊張して痛みが出ることがある。痛みに対処しただけで、うつ病を治したわけではない」と語る。
 神奈川歯科大(横須賀市)教授の小野塚實さんは「ガムなどをかむと、ストレスが減ることは証明されている。しかし、うつ病が歯科治療で回復するとは考えにくい」と話す。
 針きゅうや歯科治療でよくなる「うつ病」は、本当にうつ病なのだろうか? 安易な診断、薬物治療の見直しが求められている。(佐藤光展)
(2011年3月1日 読売新聞)