不採算で精神科切り捨て

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=37192 より転載
うつ治療を問う(1)不採算で精神科切り捨て


 青森県十和田市の市立中央病院。メンタルヘルス科(精神神経科)医師の竹内淳子さんは、週に1度、病院の車のハンドルを握り、精神保健福祉士の赤崎恵美さんと訪問診療に出向く。
 2月初め、47歳の男性宅を訪れた。男性はうつ病を10年以上患い、現在は進行がんの緩和ケアを在宅で受けている。「不安はないですか」「眠れますか」。問診が終わると、赤崎さんが場を和ませる。この日は節分の豆まきをした。男性はベッドに横たわったまま、笑顔で豆を投げた。もう自力で歩くのは困難だが、うつ病は悪化していない。
 「眠れない時、薬の量をすぐに調整してもらえる。先生たちと話をすると安心でき、闘病の支えになっています」と男性は話す。
 同病院には3人の精神科医がいるが、いずれも連日の外来と頻繁な夜勤、入院患者対応、保健センターでの相談活動などで、休みは月に1、2日。それでも竹内さんは、来年度から新たに、精神的な問題を抱える未受診者への訪問活動を始めようとしている。「この地域から自殺をなくしたい」との思いからだ。
 青森県の2009年の自殺率は全国ワースト2。中でも十和田地域の自殺率が高い。メンタルヘルス科(50床)の入院患者の5割が自殺を図ったことがあり、うつ状態から死を考え始めたケースが目立つ。竹内さんらは、自殺を企てた救急患者の対応に追われることも多い。
 ところが昨年、同科は存亡の危機に直面した。新病棟建設や、病院全体の医師不足による患者の減少で、不良債務が15億円を突破。外部監査の対象となり、昨年末の報告書で赤字の元凶と名指しされたのだ。縮小、病棟閉鎖が議論された。
 同地域には、総合病院の精神科はほかにない。縮小されれば、十分な治療が困難になる。メンタルヘルス科診療部長の谷地森康二さんは市関係者らに必要性を訴え、市民団体も反対の声を上げた。その結果、3月の市議会で当面の維持が確認される見通しとなった。
 だが、病院の経営悪化で縮小や休診に追い込まれる総合病院の精神科は増え続けている。日本総合病院精神医学会の調査では、08年までの6年間で、入院可能な精神科は272施設から239に減った。
 谷地森さんは「精神科は入院の診療報酬が他科の3分の1ほどで、もともと頑張っても赤字が出る。患者自身が反対の声を上げにくい精神科が狙い撃ちされている」と訴える。
(2011年2月23日 読売新聞)


精神科医療のユーザーは、もっと社会に向かって主張すべきなのでしょう。