ラヴクラフトとグノーシス主義

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 ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの「未知なるカダスを夢に求めて」において、 宇宙を支配する知性も魂ももたない異形の神々が呆けて踊る、下劣な太鼓とかぼそく単調なフルートの音色がひびく外宇宙の深奥にて、冒涜的な言葉を吐き散らす魔王 と描写された。その後、ラヴクラフトの創りあげた創作神話体系において非人間的な宇宙の中心に座する存在として描かれていった。また、彼の神話に協力、継承したクラーク・アシュトン・スミスオーガスト・ダーレスの作品や設定においても、非人間的な宇宙あるいは宇宙の邪悪な面の中心として描かれた。
 のちに、ラヴクラフトの創りあげた創作神話体系をクトゥルフ神話として体系づけたダーレスによると、邪神(〈旧支配者〉)の総帥であり、宇宙の統治者である「旧神」によって知性を奪われ、時空を超越した窮極の混沌の中心に幽閉されているとされる。
 しかし、ラヴクラフトの作品においてはアザトースは知性を奪われたのではなく、もともと知性も魂も持たない盲目白痴の神であった。それどころかしばしば『アザトースという名で慈悲深くも隠されているもの』などと記述されていることより、いわゆる神ですらない何か恐ろしい存在であることが仄めかされている。また、幽閉などされておらず、宇宙の彼方、窮極の混沌の中心において冒涜的な言辞を吐き散らして沸きかえる魔王、支配者的な存在として描かれている。すなわち、アザトースは盲目白痴の神にしてこの宇宙の支配者であり、冷徹な宇宙においては人間の道徳や美徳など本来的なものではなく、限定的なものでしかないという、ラヴクラフトの創作神話体系の中心に位置する存在なのである。


ラヴクラフトによるアザトースの造形は、グノーシス主義の影響を受けている可能性があります。ちなみに、ラヴクラフト自身は首尾一貫して無神論者にして合理主義者でした(ちなみに母親は清教徒でした)(コリン・ウィルソン『SFと神秘主義サンリオ文庫、1985年(原文1978年))。