SSRIをめぐる諸問題

島薗進「慎重論の論拠を求めて―エンハンスメント論争と抗うつ薬―」(『日本学報』28号、大阪大学、2009年)論文要旨
            

1.精神科医療とエンハンスメント問題
2.精神科薬物治療過剰への批判
3.競争社会の管理の道具を超えて
*薬物を用いながらでも、ひたすら走り続けるよう要求されている
*単なる社会的管理の道具としての薬物療法に甘んじるのか、それとも競争重視とは正反対の生き方をつかむための端緒として薬物療法を利用するのか
4.抗うつ薬の賢明な用い方
5.精神科薬物療法の流行の問題点
 (1)患者や患者と似た悩みを持つ人にとって利益が疑わしい措置がなされている疑いがある
 (2)患者に対する薬物処方による管理が推進され、患者へのケアやよりよい生活への配慮は軽んじられがちになる
 (3)精神疾患精神障害を引き起こす社会的要因が隠蔽され、抑圧的な環境の改善から注意をそらすことになる
 (4)人間が向き合うべき主体的な生き方の探求を回避するようになる
 (5)薬物が医師の処方を離れて用いられ、適切な医療目的以外で用いられる可能性が高い
 6.エンハンスメント論の論拠との関係
*苦難を免れがたいこと(vulnerability)の経験は、他者の苦難に対する慈悲共感の念を育てる。それは謙虚さや責任感や連帯意識の源泉となるものである。そこに良き生活を形作る共同性の基礎がはぐくまれる。