オンナの技術あるいはセクシュアリティの大冒険

「日本のオトコはなぜアエギ声を出さないのか」
http://www.cafeglobe.com/lifestyle/sexuality/001206.html より転載

第9回
オンナだけのAV鑑賞会(前編)
日本の男はなぜアエギ声を出さないのか


ことの発端は、友人A子が発した一言。「私、ガイセンなんだけどさー」。凱旋? 外線? いや、外国人専門で「外専」なんだそうな。「今のカレはイギリス人なんだけどね、日本のAVは全然コーフンできないって言うのよ。男も女も、楽しそうじゃないからって」。
へー、そうなんだ。なにが違うんだろ。セックスの技術? それとも性表現の手法? この際、そのヘンの謎を解明しようじゃないの! というわけで、女性だけのAV鑑賞会が企画されたのです。
参加者は3名。編集者A子、外専というだけあってこれまでつきあった外国人は米、英、豪、ベルギーと経験豊富な31歳。ライターB子は33歳の既婚、60歳までオッケーなフケ専。で、わたくしイナガキ、デブ専歴30年。ほうじ茶をすすり、ナチュラルハウスのクッキーをかじりつつ、鑑賞会は賑やかに始まったのでした。


洋の東西で女のアエギ声が違う?


 まずは『ディープスロート』(71年米)。キャッチフレーズは、「70年代フェラチオ・ブームを作ったポルノの古典」。
B子「出てくる女がみんな、若くない上に美人でもない(笑)。それがすごい」
イナ「女の表情がいいよね。ヤル気まんまんで髪をかきあげちゃって、うふ〜んって男を誘ったりしてさ」
A子「日本のAVとは女の描き方が決定的に違うよねー。しょっぱなから、オバちゃんがタバコ吸いながら、若い男にナメさせてるんだもん。そのへん、古さも感じない」
イナ「盛り上がってくると、自分でおっぱいわしわし揉んじゃうし」
B子「え、私も自分で揉みますよ(笑)」
 お次は『マゾリックス』(99年米)。もちろん『マトリックス』のパロディです。
A子「これもフェロモン女が男を誘惑しまくりっていうパターン。自分から足を開いて男を招くのが基本形」
B子「だよねー。あとさ、女の人の声、大きいだけじゃなく低い。吼えてるっていうか」
イナ「発声法が違うんだよ。日本の女の子は、普段より高い声を出すじゃん。この人たち、ハラから声が出てるもん(笑)」
A子「日本の女の子のエッチ声が高いのは、高い声=弱々しい声に需要があるってことを女が知ってるからだよね、絶対。演技だもん、“ア、イヤ……”なんてあんなのー」
稲垣早穂
いながき・さほ
●編集者歴7年の30歳。現在はインディペンデントマガジン『vibe girls』の編集スタッフとして、ジェンダーセクシュアリティを追求する日々。風俗から障害者の性まで、守備範囲だけは広い。
今回レンタルしたビデオのなかで、唯一オススメできるのは『宝生奈々の逆ソープ天国』。女性向けソープという設定で、来店したAV女優を手厚くサービスしちゃうという企画もの。客である宝生さんが天然ボケというか素のままというか、なんとも楽しそうなのだ。やっぱいいよね〜、女性が楽しそうなのって。
●vibe girls
http://www.ummit.co.jp/love/ 


雄叫び比較文化


B子「ところで2本ともだけど、男もずいぶん声が出てるよね。ウオーとか雄叫び風の」
A子「そう! そこに重要なカギが隠されてると思うんだ……」
 さて、ここからはAいわく。
外国人(ここでは欧米人一般。ひと括りにできないのは承知の上ですが)の男の場合は、女がちょっと色っぽいしぐさなんかを見せたりすると、もう大喜び。女に誘惑されるシチュエーションが好きなんだよね。日本人の男って、そういうのけっこう引いちゃうって言うでしょ。(B子:確かに。武田久美子のこと、日本の男は、濃すぎてコワイって言うもんね)。
女が誘惑して、その姿に男は魅了される。その一瞬、両者の力関係において、女が上に立つんだよね。少なくともそういう演出をするし、男は賞賛を惜しまない。ところが日本人はそうはいかない。男はいつも女より優位に立っていないと気が済まないんだもん。
日本の男が好むのは、女を服従させる、開発する、教えてやるっていう設定じゃない? そうすることでしか自尊心を保てないのかもね。絶対的な自分への自信が欠落してるから、せめて女性との関係では、自分が強者になりたいのかもしれない。なんか歪んでるし、脆弱だよね。

今月の
おすすめ
アイテム

『AV女優』
永沢光雄
文春文庫 \800

AV女優42人のインタビュー集。著者は男性だし、そもそも風俗誌に掲載されていたインタビューだし、その上話はけっこう悲惨だっていうのに、読み出した途端、彼女たちの人生に吸い込まれちゃう。おおかたの予想を裏切って、女性の読者の方が多いらしい。納得。


「ボクだけの可愛い幼な妻」ときたもんだ


  日本人の男が声を出さないのは、そのあたりに理由があると思うの。自分が気持ちよくなってるところを見せちゃえば、力関係は女が上になる。それがカッコ悪いと思ってるんじゃないの?(イナ:『ゴルゴ13』も表情ひとつ変えないで女をイカすよね。おまけに自分は射精しないんだよ!)
  私のカレ、鼓膜がやぶれるかと思うほどの声出すよ。本人に言わせると「だって気持ちいいんだもーん、声出ちゃうよ」。このほうが自然だと思うなあ。
「ガイジンのセックスはどう?」なんて聞かれたりするけど、もちろん、本質的な違いなんてないと思うよ。でもさ、たとえばイギリスの男にとっては、格上の女性と付き合うのは勲章なわけ。女は若ければ若いほどいいっていう日本の男とは、セックスにおいても違ってきちゃうよ、当然。
なるほどー。なんとも含蓄のあるお言葉。観る側のニーズが違うから、AVの性描写も全然違うんですね。ちなみに、ビデオショップで見渡したところ、洋モノの占める割合は5%以下ってところ。人気ないのも当然か。
次に鑑賞したのは、ビデオショップの人気トップ10の棚に鎮座していた、日本のAV『プリティワイフ』。「ダーリンッ、お弁当の後にはわたしのコトも食べてネッ 笑顔の眩しい現役女子校生はボクだけの可愛い幼な妻」だと。
内容は、推して知るべし(みなさんも1度くらいは観たことあるだろうから想像つくと思うけど)。ガックリ来た女性3人、日本の男女のリレーションシップについて、アツい議論が始まったのでした……次回へ続く!

by Saho Inagaki
illustration / Kyoko Hirayasu


「オトコを変えたいなら、オンナも変わろう」
http://www.cafeglobe.com/lifestyle/sexuality/001220.html より転載

第10回
オンナだけのAV鑑賞会(後編)
オトコを変えたいなら、オンナも変わろう


イナ「私の友だちでさ、いつもフェラチオするとき布団かぶらされてる子がいるの」
B子「なにそれ???」
A子「暑そー」
イナ「自分の彼女にはそんなインランみたいなことをさせたくないんだって(笑)。フェラをしたら怒られたっていう友達もいたけど」
A子「ボーイフレンドが外国人だってわかると、セックスがいいんだろ、とかっていう人がけっこういるのよね。ハッキリ言っていいと思うよ、日本人より。だってセックスもコミュニケーションだ、ふたりで楽しむものだって意識があるからね」B子「率直に話せるってこと?」
A子「おいしいご飯を食べたいねっていうのと同じ感覚かな。今夜イタリアン食べたいな、キミはどう? みたいに。妙な照れもないし」


私たちも見習いたい、あの率直さ


イナ「フェラを強要するのも、するなっていうのも、コミュニケーションを最初から拒否してるよね」
B子「それってセックスに限らないでしょ。パートナーとの関わり方が、セックスにおいて象徴的に現れてるだけだよね」
イナ「こないだある人生相談で、『夫が大人のおもちゃを買ってきて使いたいという。気が狂ったのでしょうか』っていうのがあったわけ(笑)」
A子「ヒー」
イナ「人生相談に手紙出すより、まずは夫と話し合えばって思う。この夫もダメなんだろうけど、妻の方も夫とのコミュニケーションを放棄してるわけでしょ」
B子「そうそう。パートナーとの快適な関係を作りたければ、女からもコミュニケーションを取る努力しなきゃね。洋モノのビデオを見てると、女がいかにも欲情してます、っていうアピールをするじゃない。あの率直さも見習いたい(笑)」  

稲垣早穂
いながき・さほ

●編集者歴7年の30歳。現在はインディペンデントマガジン『vibe girls』の編集スタッフとして、ジェンダーセクシュアリティを追求する日々。風俗から障害者の性まで、守備範囲だけは広い。
「東京女性財団廃止に反対すべく、請願書を持って東京都議会へ。初めての体験で、なんか興奮しちゃいました。議員のみなさん、ちゃんと検討してくださいね! この経緯はBBSでご報告します」
●vibe girls
http://www.ummit.co.jp/love/


オマエも好きだなぁ、といわれたら


A子「日本の女の子だと、“アタシ、セックスなんて興味ないの。でもアナタが好きだからがんばるっ……(中略)……すごーい、こんなの初めてー”っていう台本をとるでしょ(笑)」
B子「カレがどうしてもっていうから仕方なく……っていうフリね。やっぱ、女は欲情されるものだっていう刷り込みがあるのかな」
A子「昔つきあってた日本人の男なんだけど、ある日したくなって私から布団にもぐりこんだら、『なんだ、オマエも好きだなぁ〜』ってみたいな反応が返ってきて(笑)。そういわれちゃうとさ……」
B子「そうか嬉しいよ、ってふつうに喜んでくれればいいのにね。あくまで優位に立ちたいってわけ?」
A子「悔しい〜、今なら切り返せるのにな。『ハイ、好きです』って。『アナタも嬉しいでしょ』っていってやるのに」
イナ「それ大切。男たちのアホらしい幻想やら願望に合わせてあげる必要なんかないよ。それらを一度ブチ壊して、新たな女の魅力を創造しなきゃ」



女同士の友情が社会を変える、かも?


B子「ふう。まったく、ダメ男を根絶やしにするにはどうしたらいいわけ?」
A子「地味だけど確実なのは、こういう使えない男を市場から排除していくことよね。もう相手にしない。お引取りいただきましょ」
イナ「女が、男の愛を失うことを怖れちゃいけないと思う。それが傍若無人な男を生き残らせてるからね」
B子「女友だちって大切だよね。恋愛についてもセックスについても、もっと女性同士が話せる場があるといいなって思う。こういうふうに(笑)」
A子「日本には“ガールズ・ナイト”みたいな習慣もないしね。女同士の友情がじつは希薄な気がする(これは男同士も同じだけど)。女同士でセックスのことまでじっくり話せるような機会って、すごく大切だと思う」
イナ「いまだに『アタシ、男友だちの方が多いの。男の子の方がつきあいやすいし話題も豊富だし』なんて言う人いるじゃない。かわいそうになって思う。本当に味方になってくれる女友だちがいたら、ダメ男の愛なんかなくても生きられるかもしれないのに」
A子「女同士がもっと支え合えれば、男との関係性も変えられるかもしれないよね。まずはこんなビデオ鑑賞会からね(笑)」  

by Saho Inagaki
illustration / Kyoko Hirayasu


*これらの記事内容には、留保が必要です。
1.映画「ディープスロート」は、撮影中に主演女優に対する重大な人権蹂躙が行われていたことが後に問題になりました。
2.これらの記事では、日本の女性はセックスにおいてしばしば演技しているとされていますが、洋の東西を問わず、男女を問わず、人間はセックスにおいて大なり小なり「演技」していると思われます。ゲイ・ライターの伏見憲明さんは、『ゲイという経験 増補改訂版』(ポット出版、2004年)の中で、生まれつきの聾唖者の初体験の相手になったとき、その人のアエギ声が金属音に近かったということを報告し、「ケモノのようなセックスをしている人は、実はとても文化的な人なのだ」と論じています。