精神医療と宗教的身体観

 身体は神様から借りているもの、という見方について考えてみます。どういうことかというと、患者さんの中には時々自らの体を荒らす人がいる。自傷行為に象徴されますが、リストカットをしたり、大量服薬をしたり。自暴自棄になってそうしてしまうことが多いかれど、そもそも自分の身体は自分の判断でいかようにも扱えるという驕りがあるからだと思います。
 そうではなくて、身体というものについてより謙虚になれないものかという意味を込めた見方です。医師だけではなく、患者さんもその身体をいつくしむべきではないか。
 身体は神様から借りてきたものだから、汚してボロボロにして返しては駄目なんだと。返す時は、借りてきたものをきれいにしてから返す必要があるんだと表現することで、自分をいたずらに痛めつけることから解放されるのではないか、というふうに考えています(熊木徹夫『君も精神科医にならないか』筑摩書房、2009年;pp.72-73)。


 身体について「かしもの・かりもの」の教理をもつ天理教の信者には、自傷行為は少ないことが予想されます。逆に言えば、現代日本の若者の間で自傷行為が増加している理由のひとつは、身体観の脱宗教化が進行していることにあるのでしょう。