美智子皇后とフェミニズム

ー「使命感は自殺防止の最大の力のひとつである」(神谷美恵子「自殺と人間の生きがいー臨床の場における自殺」『旅の手帖より』みすず書房、1981年、p.112)

 美智子現・皇后(1934-)の愛読書のひとつは、傑出した精神科医兼翻訳家で、キリスト教一般(特にプロテスタントのクェーカー派)に生涯強い関心を持っていた神谷美恵子(1914-1979)が執筆した「こころの旅」(初版1974年)で、皇后は、皇太子妃時代に神谷美恵子を相談係にしていました。神谷美恵子は、小説家ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の病跡学的研究も残しています。日本のフェミニストで、ヴァージニア・ウルフを「フェミニスト」と呼ぶことに異論のある人はいないでしょう。従って、美智子皇后神谷美恵子を介して間接的にフェミニズムの影響を受けている、と見ることも可能です。戦後の「大衆天皇制」において、マスメディアの激しいバッシングを受けても、美智子皇后が、最悪の場合でも「失声症」(1993年)で収めるという形でプレッシャーを乗り切り、何とか精神的健康を維持できたのは、宗教的な使命感をもっていたからでしょう。美智子皇后の宗教的使命感には、神谷美恵子の影響もあるでしょう。「適応障害」に長年苦しめられている民間人出身の雅子現・皇太子妃の悲劇は、同じ民間人出身でも、美智子皇后ほどには「宗教的使命感」をもっていないことからきているのかもしれません。いま、雅子・皇太子妃に一番必要なのは、「自分だけの部屋」(ヴァージニア・ウルフ)ではないでしょうか。

ー「使命の方がわれわれを探しているのであって、われわれのほうが使命を探しているのではない」(同上、p.157)