「ニッチ」(居場所)ということ

 生態学で「ニッチ」(生態的地位)と言われるものは、ある種なり個体が環境と動的な平衡を保ちつつ生存のための諸条件を安定して維持できる領域を指すようであるが、そのような意味においてできるだけ多様な人々に「ニッチ」を発見し、再発見し、そこからヒゲ根を張る機会を比較的容易に許容し供与する社会が、精神科医から見ての好ましい社会の、十分条件ではないにしても、重要な必要条件であるように思われる

(中井久夫「世に棲む老い人」『「つながり」の精神病理』ちくま学芸文庫、2011年(消失1987年)、p216)。

*10年後にアダルトチルドレン論で流行った「私の居場所はどこにあるの?」という議論より、ずっと射程の長い議論だと思います。