コフートと自己愛の問題

 この現代社会のアンバランスや自分中心主義の広がりによって、私たちは、自己愛の病理を抱え込みやすくなっています。自己愛の病理とは、過剰な自己意識(優越感)や自惚れに囚われて尊大で傲慢な態度を見せるという「自己意識の肥大化(思い上がり)」と、それと反対の批判などによって簡単に傷つけられてしまうといった「自己意識の脆さ」の両方を特徴とする病的状態です。この自己愛の病理から、異常に強い嫉妬心や激しい怒りが生じたり、うつ状態やアルコール依存が出現したりします。近年、米国の精神分析家、ハインツ・コフートがこの自己愛を取り上げて革新的な治療論を展開しています。彼は、自己愛を病的状態であると同時に、安定した自己を取り戻すための土台だと考えて、自己愛を修復することを治療の重要な課題と位置づけています。このような考えに拠るなら、自己愛とは、現代人の病理を理解し、そこからの回復を目指すために鍵となる概念だということになります(林直樹「監訳者解題」タミ・グリーン『自分でできる境界性パーソナリティ障害の治療ーDSMー4に沿った生活の知恵ー』誠信書房、2012年、p77)。


*ごもっともです。