北野武と映画による自己治療

 精神分析家のバリントは、「基底欠損」(Basic Fault)の治療の目標は、「欠損をかつてもっていたことを受容し完全治癒を断念すること」にある、としています。北野武の唯一のメルヘン映画「菊次郎の夏」は、夏休みにいわば「母を尋ねて三千里」の旅行をし、ついに母に会えなかった男の子の物語です。北野武は、映画撮影という自己治療の試みを通じて、バリントのいう意味では、治療の目標に到達したのかもしれません。なお、わたし自身は、バリントと違って、「 基底欠損」にも「完全治癒」はありうる、と思っています。拙著『男らしさという病?』をご覧下さい。