「全体の科学」のために

 精神医学はますます生物学志向を強めています。それだけ図2の「人間」にはなかなか手が回りかねるのが実情でしょう。私が精神科医になった一九五三年ごろは、大学の精神科に非生物学志向の教授がいるところが少なくとも十校程度あったのですが、その後の精神病理学は急速に力を失い、今やほんの一、二校になってしまいました。現代の精神病理学が生物学派より発明発見をしそうな気配を持つわけでは決してないのですが、本書の表題のように「全体の科学」のためには、精神病理系の人がまったくいない教室は困るのではないでしょうか。精神療法をしない精神科医が普通になり、内科医・外科医と同じようにムンテラしかしない精神科医ばかりにならないでしょうか(笠原嘉「精神医学における内因性概念について今一度」『「全体の科学』のために」みすず書房、2013年(書き下ろし)、p248)。


*人文社会系の研究者にも、「精神医学」に貢献する余地は充分にありそうです。