論文要旨

愛知学院大学文学部紀要』40号ノート

<題名>「小説『1Q84』における悪の表象について」
<著者>熊田一雄(宗教文化学科准教授)


<Title>About the Representation of the Evil in the Novel “1Q84
<Author>Kazuo KUMATA(Associate Professor of Department of Religious Culture)


<要旨>
 本稿の目的は、社会現象にまでなった村上春樹の大ベストセラー『1Q84』(1-3、2009―2010年)における悪の表象を分析することにある。この小説では、「リトル・ピープル」という邪神たちが、オウム真理教をモデルにしたとおぼしき「さきがけ」というカルト教団を操っている、と設定されている。この「リトル・ピープル」という邪神たちの造形には、ユングの分析心理学だけではなく、「人間の理解や定義を超えたもの」とされている点で、ラヴクラフトのSF的な恐怖小説の影響を見て取ることができる。ラヴクラフトの恐怖小説には、「実存主義のポップ版」としての側面がある。最後に、現代の先進国の個人主義的な人々が、こうした悪の表象にひきつけられる社会的背景として、救済宗教の神話的世界観が縁遠くなったことと人間関係が希薄化したことを指摘する。


<キーワード>
1Q84』/悪の表象/ラヴクラフト/実存主義/非社会的個人主義


<参考文献>
コリン・ウィルソン実存主義を超えて』福村出版、1974年(原著1966年)
コリン・ウィルソン『SFと神秘主義サンリオ文庫、1985年(原文1978年)
浦沢直樹20世紀少年』1-22、小学館、2000-2007年
風間賢二『快楽読書倶楽部』創拓社、1995年
フランツ・カフカ『夢・アフォリズム・詩』平凡社ライブラリー、1996年
熊田一雄「鏡としてのオウム真理教」『新宗教新聞』、1997年4月号
熊田一雄『男らしさという病?―ポップ・カルチャーの新・男性学』風媒社、2005年
斎藤美奈子『文壇アイドル論』文春文庫、2006年(初出2002年)
前島賢セカイ系とは何か―ポスト・エヴァのオタク史』ソフトバンク新書、2010年
村上春樹アンダーグラウンド講談社文庫、1999年(初出1997年)
村上春樹『約束された場所で―underground2』文春文庫、2001年(初出1998年)
村上春樹1Q84』1-3、新潮社、2009-2010年
村上春樹ロングインタビュ−」『考える人』新潮社、2010年夏号
ハンス・ヨナス『グノーシスの宗教』人文書院、1986年(原著1964年)
H・P・ラヴクラフト(著)、宮崎陽介(漫画)(著)、森瀬繚(解説)『クトゥルフの呼び声』(クラシックCOMIC)、PHP研究所、2009年
三ツ谷誠「自室という子宮〜母胎回帰としての引き篭もり」『[Japan Mail Media』No.595 Monday Edition、2010年8月2日発行
Wikipediaクトゥルフ神話
Wikipedia「ハワード・フリップス・ラヴクラフト