少年への性的虐待とマンガ

リチャード・B・ガートナー著「少年への性的虐待」(作品社、2005年)の「あとがき」で、翻訳者の宮地尚子さんが、日本では少年への性的虐待については精神医学よりもマンガの方が問題を鋭敏に把握しているとして、萩尾望都の「残酷な神が支配する」と吉田秋生の「バナナフィッシュ」を例に挙げています。私はこれに、吉田秋生の「ラヴァーズ・キス」を付け加えたいと思います。この作品の副主人公の男子高校生は、開業医の何不自由ないお坊ちゃんとして育ったものの、愛人を作った父親が家に寄りつかなくなり、母親が自分のベッドに入ってくるようになったことに怯えて、ボロアパートで一人暮らしを始め、母親がアパートにまで押しかけてくるので、最後は高校を退学して地元から離れた民宿で働いて自活することを決意します。「父親不在/母親過剰」(信田さよ子)の「近代家族」で育った多くの日本人男性にとって、身につまされる思いのするマンガだと思います。母親による息子への性的虐待を描いた山岸凉子涼子の「スピンクス」も怖いマンガです。