信頼障害としての依存症

 依存症の患者さんたちがアルコールや薬物を手放さない理由は明白です。依存症とは、生きづらさからくる負の感情に心理的孤立が重なった結果、一人でこころの痛みに対処しようとする孤独な試みに他なりません。依存症の患者さんたちにとって、「人」とは不安や緊張の原因になりこそすれ、安心や喜びをもたらす存在ではないのです。
 彼らは口をそろえて「一人でいるほうが本当は楽」と言います。それは、他者は「素のままの自分」を受け入れてくれるはずがない、という寂漠とした不信感の表現に他なりません。依存症とは、長年抱えてきた生きづらさが生み出した負の感情と心理的孤立を解消するために、他者に対する根強い不信感から「人」をたよることができず、アルコールや薬物という「物」にしかたよることができなくなってしまった病、すなわち「信頼障害」なのです(小林桜児「信頼障害としての依存症」井原裕・松本俊彦・よくしゃべる精神科医の会(編)「くすりにたよらない精神医学」日本評論社、2013年、p130)。


*「信頼障害」とは、うまい表現だと思います。ゲオルグジンメルの宗教社会学が想起されます。