ろくでなし子さんに聞く

http://digital.asahi.com/articles/ASG947WFSG94UTIL061.html?iref=comtop_6_06 より転載
ろくでなし子さんに聞く 「そもそもわいせつではない」


 自分の女性器をモチーフにした作品を作ってきた漫画家・アーティストのろくでなし子さん。制作資金を支援した人たちにお礼として、3Dプリンターで出力できる自分の女性器のデータのダウンロード用URLをメールに記して送ったところ、わいせつ物頒布等の疑いで7月に警視庁に逮捕され、その後、釈放された。創作活動や逮捕について、改めて、ろくでなし子さんに聞いた。
――警察や検察での取り調べはいかがでしたか。
「警察ではあの手この手で威圧的に、データの送信行為が『わいせつだ』と言われました。たとえば、3Dデータを開くとできる形を示した画像に、科学捜査研究所の捜査員たちが署名した書類を見せられました。そして『国がわいせつだと認めているんだ。どう思う?』と言われました。後で確認したら、その書類は、データのファイルが開けるという証明にすぎませんでした。データを送信したのは事実ですが、わいせつではないと主張し続けています」
――警察はなし子さんの肩書を「自称芸術家」と発表しました。なぜ芸術家と名乗ったのですか。
「漫画家としては16年の経験がありますが、最近は漫画を描いていないので、漫画家とは名乗りませんでした。私の作品は芸術だと考えていますし、最近の個展には大勢の若い人が来てくれて自信も出たので、芸術家と名乗りました」
――芸術とわいせつをめぐる事件では、「わいせつな描写を含むが、作品全体として芸術性が高く、違法ではない」と主張されるケースがあります。
「私は、『わいせつだけど芸術だ』と言っているのではなく、『そもそも女性器はわいせつなものではない』と考えています」
――なし子さんはわいせつだと思わなくても、3Dデータを受け取った人がわいせつだと思う可能性はありませんか。
「確かに支援のお礼に3Dデータをつけましたが、実際に受け取った人に話を聞くと、データを開いて(3Dプリンターで)造形することが目的ではなく、プロジェクト自体に関心を持ってくれている人が大部分でした。支援した人は、『女性器はわいせつでない』と主張する私のアート活動に賛同しているので、データをいやらしいものとは見ていないと考えています。それに、3Dデータを出力してできる樹脂製の白い板を見て、果たして欲情するでしょうか」
――なし子さんにとって、アートとは?
「『何だ、これは』と思わせたり、今までの価値観を変えたりするものが、私にとってのアートです」
――活動を通じて変えようとしているのは、どんな価値観ですか。
「変えたいのは『女性器=タブー』という凝り固まった思い込みです。作品がニュースサイトで紹介された時、『見せるものじゃない』とたたかれました。銀座のバーで作品の展示会をやった時も、見に来た男性の中に『女性器は暗闇の中で布団をめくってそっと見るものだ』と怒る人がいた。女性器の名前は伏せ字にされ、テレビでは口にできない。女性にとって女性器は体の一部にすぎず、自分でいやらしいと思うことはありません。女性器を過剰にあがめ奉ったり卑下したりするのは、男性目線で、女性差別だと思います」
――女性でも、名前を言うのは恥ずかしい人が多いのではないですか。名前を言う必要も感じません。
「恥ずかしいと思うのは、小さい頃から無意識に『言ってはいけない』と学んでいるからではないでしょうか。言いたくない人に、強制するつもりは全然ありません。道の真ん中で叫ぶわけではなく、TPOもわきまえます。ただ、名前を言うことがここまで恥ずかしいとされているのは、異常ではないでしょうか」
――女性にとってどんな意味があるのでしょうか。
「制作のための資金をネット経由で集める仕組み『クラウドファンディング』を利用した時、出資者の半数以上は女性だったと思います。仕事で嫌な目にあったり、結婚のプレッシャーを受けていたり、我慢して生きているまじめな人が多かった。口にしてはいけないと思いこんできた女性器の名前を、言ってもいいんだと気づいた時、『男性社会に反抗している気分になった』という人もいました」
――女性器の特別視は昔からフェミニストが批判しています。
フェミニストのつもりはありませんが、自分の体は自分のものだとか、男女平等であるべきだと思っているので、思想は似ているのかもしれません」


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 〈ろくでなし子〉 大学卒業後、漫画家として活動。漫画作品に「女子校あるある」(女子校あるある研究会編)ほか。数年前から自分の女性器の形をモチーフにしたジオラマやボート、iPhoneケースなどの作品を作り、個展などで発表している。42歳。