大島弓子と精神分析

 私は、「少女マンガ花の24年組」のなかでいちばん「紙一重」タイプなのは、大島弓子だと思っています。若い日に「F(熊田註;フロイト)式蘭丸」という作品を書いている大島さんは、精神分析にも造詣が深いと思います。特に、「山羊の羊の駱駝の」(初出1988年)は、精神分析の影響が歴然としている作品です。幼い頃に、厳しい父に愛犬を薬殺され、「それ以来あたしは泣いていません」という女子高生が「募金すること」にはまって、やがて身を滅ぼしてしまうというストーリーです。募金にはまって主人公が知ったのは、「犬というのはいつもいつも人になにかをしてあげたいしてあげたいしてあげたいと思っている動物らしい/あたしはそれがよおくわかりました」ということ。ここには、「対象喪失による体内化」(フロイト)と、「潜在的病理現象としての昇華」(サリヴァン)とがうまく描かれています。おそらく、大島さんはサリヴァンも知っているのでしょう。