心理療法と「秘密」

 (前略)話し合ったことを心のルツボの中で反応させるのは一つの仕事―けっこうエネルギーを食う仕事である。自分が変わろうとするのに抵抗する内心の力は、変わらねばならない必然性を認めている場合にかえって強い。人に話すとみるみる楽になる。しかし、それは心の中であたため反応させてしかるべきものを水に流したからで、いわば当然なのだ。
 医者も気をつけねばならない。(中略)
 最終的に秘密を守る義務を課せられているのは医者である。それは、本人の了承なくしては破れない法的義務である。むしろ、親や先生からの打ち明け話をも引き受けて、持ちこたえる力が医者にはなくてはならない(中井久夫精神科医からみた学校衛生」『「思春期を考える」ことについて』ちくま学芸文庫、2011年(初出1981年)、pp.76-77)。


*クライアントの「秘密」に関するこの警告は、宗教者も聞いておくべきことでしょう。「宗教者も気をつけねばならない」。