四国88カ所巡礼の現代的変容

http://digital.asahi.com/articles/OSK201303160019.html より転載
酒蔵、鉄道…四国88カ所巡礼 高松市の酒店社長が考案


【太田成美】四国といえばお遍路さん。88カ所を回れば願いがかなうという、単純だが達成困難なチャレンジが今も人気を集め、年間15万人が四国を一周する。このアイデアをお寺だけに限っていてはもったいないと考えた高松市の酒販店主が、四国の酒蔵を皮切りに、温泉、鉄道など知られざる88カ所を次々発掘中だ。「全部巡ればあなたも『神様』に認定される」とホームページで公表し、人気を集めている。
 高松市上天神町で「久本酒店」を営む佐藤哲也さん(52)は6年前、若者の日本酒離れに悩んでいた。「どうしたらお酒に興味を持ってもらえるか」。まずは身近な酒蔵に足を運んでもらおう。四国の酒蔵をネットで紹介しようとして、ふとひらめいた。「四国といえばお遍路だ」。88カ所の酒蔵を紹介することに。
 四国中の酒蔵に片っ端から声をかけ、「札所」となる蔵を選定。でも回ってもらうだけでは芸がない。酒蔵には「お接待」として酒の振る舞いをお願いしよう。巡礼を終えて「結願(けちがん)」できたかどうかの証明も必要だ。自前でスタンプを置いてもらおう――。
 アイデアが次々とわく一方、負担に感じた酒蔵から協力を断られることも増え、88カ所になかなか届かない。繰り返し説得し、約1年後の2008年2月、ようやくホームページを完成させた。
 ネット上で名前を登録した「巡礼者」は、ダウンロードした「納経帳」にスタンプを集め、最後に地元の各酒造組合に送れば「酒神」の認定証がもらえる。これまでに約1千人がエントリーし「予想以上の反響」。さすがに結願したのは約60人だが、佐藤さんは88カ所をめぐる面白さにすっかりはまった。
 酒蔵の説得行脚で疲れた体をいやしたのは、行く先々の温泉。「思った以上にたくさんあるな」と気づき、温泉の88カ所も探すことに。ん、待てよ、何でも88カ所を集めて紹介できるんじゃないか――。
 友人らに声をかけ、昨年6月に「四国なんでも88箇所巡礼推進協議会」を設立。JR四国の社員やウェブ制作会社の経営者ら、「四国愛」を自任する12人がメンバーに名を連ねた。
 「温泉」「駅と車窓」「ダム」――テーマが決まると、メンバーがそれぞれのテーマに詳しい人に声をかけ協力を依頼。情報を持ち寄る会議を開き、88カ所を選ぶ。そこから先は佐藤さんの出番だ。実際に「札所」をまわって取材し、情報掲載の了解を取りつける。
 きちんと回ったか証明する仕組みに手を抜かないのも特徴だ。先月1日に開設した「駅と車窓」の場合、乗った電車と自分が一緒に写った88枚の写真データを協議会のメンバー宛てに送る。本物と認められればJR四国から「四国鉄神」の認定証が贈られる。
 みごと結願した時のごほうびは「自己満足。御利益はマニアからあがめられること」と佐藤さんは笑う。「でもひとつのテーマで88カ所を回ると、誰も気づかなかったディープな四国が見えてくる。古き良き日本が残っている四国でふるさとを再発見するチャンスです」
 今後も続々と新たな88カ所を紹介する予定で、すでに食堂、珍味、パワースポット、埋蔵金を探索している。