職場のうつ

うつ治療を問う(2)社員のストレス 早期緩和


 職場のうつが深刻化している。厚生労働省の調査では、うつ病と自殺による社会的損失は年2・7兆円。同省は10項目前後の簡単なストレスチェック票を作り、2012年から企業に実施を義務づける方向で検討している。
 大阪ガス(本社・大阪市)では、02年から独自にストレスチェックを行っている。パソコンの導入で仕事量が増え、不眠や体調不良に陥る社員が増えたためだ。
 社員は健康診断の時期に専用サイトを開き、「自分のペースで仕事ができる」「何をするのも面倒」など、職業性ストレス簡易調査票(旧労働省作成)を使った46項目の質問に答える。結果は本人と産業医しか見られず、上司への報告は本人の了承が必要だ。
 要注意の数値が出た社員は、産業医の岡田邦夫さんが面接する。すると、家族の病気などの悩みと、多忙な仕事との板挟みで苦しむ姿が浮かび上がってくる。
 ある若い社員は、問題なく仕事をしているように見えたが、チェックで大きなストレスがあることがわかった。「やりたい仕事と違う。上司は良い人で言えない」と面接で明かしたため、岡田さんが間に立ち、上司に胸の内を伝える機会を作った。部署を変え、希望に沿った仕事を任せたところ、生き生きと打ち込めるようになったという。
 家では普通なのに会社では元気のない「新型うつ病」が注目されているが、この社員も危険性があったと岡田さんはみる。新型うつ病の患者は、わがままと見られがちだが、岡田さんは「仕事はしたいのに、理想と現実の違いに悩み、エネルギーが尽きる例が少なくない。ストレスの早期緩和は予防に有効」と話す。
 筑波大人間総合科学研究科教授(ストレスマネジメント学)の宗像恒次さんは、民間と共同で企業向けシステムを作成。約100の質問の答えによって、ストレスの評価や対処法が表示される。サイトを開くための認証番号は会社側は知らず、社員のプライバシーは保たれる仕組みだ。複数の大企業が導入を検討している。
 岡田さんは「ストレスで休職者が相次ぐ会社は、今後生き残れないだろう。定期的なチェックは重要だが、社員が安心して悩みを話せる職場作りが何より大切」と訴える。
(2011年2月24日 読売新聞)


現代日本の職場における出世競争(あるいは「生存競争」)を考えれば、「社員が安心して悩みを話せる職場作り」はまだまだ難しいでしょう。