喫煙への心理的依存

 磯村毅「リセット禁煙のすすめ」(東京六法出版、2005年)を読みました。好著です。禁煙本は山ほど出ていますが、タバコの健康被害を並べて脅すか、精神力で禁煙しろという根性論を展開するか、のどちらかでした。喫煙者は、タバコの害など承知で吸っているし、ニコチンの離脱症状(禁断症状)がキツくてやめられないわけです。たとえこうした本でいったんは禁煙に成功しても、長期間にわたって追跡調査をすれば、結局喫煙者に戻っていることの方が多いのです。
 この本は、科学的に、ニコチン依存のメカニズムをやさしく解説すると同時に、喫煙者が挙げる「タバコの効用」を理論的に論破しています。ニコチンを、喫煙という形で急速に体内に吸収すると、脳内の神経伝達物質ドーパミンがニコチンによって自動的に置き換えられ、脳がドーパミンを形成することを怠るようになり、ニコチンが欠乏すると、禁断症状が起きるようになります。喫煙者が挙げる「タバコのうまさ」は、単にニコチン吸収によって脳が非喫煙者の普通の状態に一時的に戻ったというだけのことで、それを「タバコの効用」と考えるのは錯覚にすぎません。
 約1週間ニコチンを完全に絶つと、脳は再びドーパミンを生成するようになり、喫煙者がタバコの効用として挙げる「集中力の高まった状態」を恒常的に維持できるようになります。もちろん、この1週間は離脱症状に苦しみます。著者は、離脱症状が重い場合は、ノコレットニコチネルパッチなど禁煙補助薬の使用を勧めています。皮膚からゆっくりと吸収するぶんには、ニコチンは依存は引き起こさないのです。あとは、少し時間がかかりますが、脳がドーパミンを再び生成する日を待てばいいだけです。
 喫煙には利点もあると思っていた私には、「眼からウロコ」の本でした。この本を読めば、ニコチンへの心理的依存を絶てるでしょう。依存のメカニズムを知っていれば、再喫煙の可能性もほとんどないでしょう。