三島由紀夫論(大学の講義ノートから)

*1980年代以降、グローバル化の加速度的進展の中で、「民族」の心の拠り所を求める穏健な動きが世界的にある/その一部が、急進的政治運動に転化する/それを西欧のマスメディアが差別的なニュアンスを込めて「ファンダメンタリズム」と呼んでいる

 

グローバル化の中のアンデンティティ戦略/北東アジアの日中韓では、宗教の政治への従属が近世という早い時期に起きた/「宗教」で「民族」が団結するという方向にはいかない/中韓の右翼=「儒教精神の見直し」/日本→「天皇制」で団結するという動き/三島由紀夫「美としての天皇制」

 

三島由紀夫事件(1970年)/ノーベル賞の有力候補だった著名な作家が、私兵とともに自衛隊の市ヶ谷駐屯地に突入、憲法9条改正のクーデターを呼びかけて(予定通り)失敗、切腹自殺(ネットに三島の生首が出ている)//劇作家でもあった三島がシナリオを書いた自作自演の自殺劇/三島の演説https://www.youtube.com/watch?v=xG-bZw2rF9o/三島が播いた檄文は、配布プリントにしてある

 

*三島の行動はどう見ても「過激で極端」であったが、その主張は、50年後のいま冷静に見れば、賛否は別として、無理なことではなかった/当時は理解されなかった

 

憲法1条の象徴天皇制事項はそのままで、天皇制を日本の伝統美の象徴にする/文化行事、特に正月の「歌会始め」を重視する/日本人は、豊かな生活のためなら、伝統的生活様式はすべて捨てるだろう/しかし、「日本語」だけは捨てられない/57577のリズムも捨てられない/日本語に対する思いを、天皇制につなぎとめる/若者がハンバーガーを食べながら、スマホで「歌会始め」に応募するような日本を考えていた/グローバル化のなかで、「日本語」による国民の団結

 

交戦権の復活・軍備増強・日本の核武装のような無理を主張していたのではない/憲法9条を改正して、自衛隊を国軍とする/自衛隊2分割案→国土防衛軍(従来通り専守防衛)と国連予備軍(国連安保理の決議があった場合のみ、国連の指揮下で海外派兵する/「象徴天皇」に、自衛隊に旗を渡す儀礼(現在は防衛大臣)をしていただく/「日本文化を守る」自衛隊という形にする

 

*熊田個人の考え

=三島は、後世に宿題を突きつけて自殺した//50年経っても、「天皇制の存在理由は何か」「自衛隊はどうするのか」日本人はまだ決めかねている/三島プランだと、自衛隊(国連予備軍)はクウェートには派兵できたが、アメリカの単独行動であるイラク戦争には派兵できなかった/現実の日本がやったことは、逆だった

→私は、現在の「開かれた」象徴天皇制はうまくいっており、そのままでいいと思う。また、50年経って自衛隊は完全に国民の支持を得ている/しかし、自衛隊に「米軍の2軍」という側面があることは否定できない/「アメリカの子分」から「国連中心の独立国」になるという考え方はあると思う/決めるのはこれからの日本人である

 

グローバル化の加速度的進展のなかで、「和」や「日本語」で団結しようという穏健な動きが広範にある/ex.「和風」ブームや「声に出して読む」日本語のブーム/それを「過激な」政治運動に転化させようとしたのが三島由紀夫であった/日本の「ファンダメンタリズム」といえよう