日本のノーベル賞報道とジェンダー

http://webronza.asahi.com/science/articles/2015101300004.html より転載
いわゆる「良妻賢母」を美談とする有害性


 今年も(以前もそうであったが)、受賞者(男性)の妻が「家を守り、子を育て、家計を切り盛りし」夫が仕事(この場合研究)に専念できる環境を支えた、という話が「美談」として伝えられた。これも、多くの国民がこのような話を「美談」として受け取るからこそ、報道する側もそれに応じてストーリーを発信するのだと思われる。
 しかし、筆者は、このように、夫=働いて家族を支える、妻=家族を守り夫が仕事に専念できるよう支える、といったスタイルが「最も賞賛に値する夫婦関係そして家族のあり方」といった画一的な考え方や報道の仕方には、大きな違和感を覚える。そもそも、夫婦関係や家族のあり方は、個々の事柄であるし、それぞれの夫婦や家族が自分たちにとって最も良い関係や役割分担を構築すれば良いだけのことだ。わざわざ、それをノーベル賞受賞者にこじつけて、「このような夫婦関係があったからこそ、ノーベル賞を取れるような研究が生まれたのだ」といった誤った認識を刷り込み、将来研究者としてノーベル賞級の成果を出すことを目指す若者たちに、こういった夫婦関係や家族のあり方が「唯一のあり方」かのごとくストーリーを伝搬するような行為は、むしろ有害だと考える。
 これも、これまで数多くのノーベル賞受賞者が出ているにも関わらず、未だに女性の受賞者がゼロという状況の国だからこその現象なのかも知れない。


*ごもっともです。