日本文化と残酷

安部 そして、その日本人の泥棒が狙うのも、やはり日本人なのです。いちばんその時期に被害が大きかったのは日本人で、日本人が日本人を襲っていた。しかも非常にそれは残酷な襲い方をしました。 
 だからぼくは、日本人の内部構造について、日本人はとても自分に嘘をつくのが上手だという気がしますね。こういう事実は、日本人はあまり話したがらないのです。しかしこれは厳然たる事実です。
 日本人はよく群がるという、実ははじかれるのがこわいのですよ。なぜかといったら、もともとはじかれた状態で生きているからです。はじかれることに対する恐怖が疑似集団を作るけど、たとえば権力が崩壊するといった極端な状態になると―はじくことも、はじかれることもない、コントロールを失った状態におちいると、今度はものすごく残酷になる。ところが、その日本人が中国人や朝鮮人を襲うことはなかった。なぜかというと、日本人はそのときすでに負けた民族だったからです(安部公房ドナルド・キーン『反劇的人間』中公新書、1973年、p33)。


*敗戦後の満州での重い経験に支えられた安部公房の日本文化論は、傾聴に値すると思います。日本文化論が「世俗社会の市民宗教」になっている現代では、なおさらです。