アンパンマンの孤独―愛と勇気とホモソーシャル―

 正義は勝ったと言っていばってるやつは嘘くさいんです。
(中略)
アンパンマンマーチ」の中に、


  愛と勇気だけが友達さ


 という歌詞があります。それで抗議がきたことがるんだけど。これは、戦う時は友達を巻き込んじゃいけない、戦う時は自分一人だと思わなくちゃいけないんだということなんです。お前も一緒に行けと道連れをつくるのは良くないんですね。無理矢理ついてくるなら仕方ないけどね。
 横断歩道もみんなでわたれば怖くない、悪いことする時も群衆でやれば怖くないというのがあるけど、責任は自分で負うという覚悟が必要なんだということです(やなせたかし『わたしが正義について語るなら』ポプラ新書、2013年、pp.122-123)。


 ひとつはっきり言えるのは、戦争は良くないということ。
 国民を統一していくには、戦争をするのが便利という時もあります。仮想敵をつくっていく方が、正義として国民の心を一つにまとめることができるわけです。政府は自分も悪いやつなんだけど、相手が悪いというのはひとつの政策なんでね。
 戦争は国家の意思でやるものです。その中に国民がまきこまれているわけですね。国家と殺人は全然違う。例えば日本とロシアが戦争をしたって、個人は相手を憎んでいるわけでもなんでもない。それが国家ということになると戦いになって国民は犠牲になるわけなんです(同上、p143)。


*従軍体験をもつ戦中派世代であるやなせたかし(1919-2013)が、「ホモソーシャルな絆」(イヴ・K・セジウィック)の上に成り立っている「男たちの国家」(Manly State、シャルロット・フーパー)を全く信用していないことがよくわかる文章です。