認知行動療法と精神分析療法

(前略)しかし、残念ながら間もなく起こった学園紛争でこの興味ある試みも頓挫せざるを得ませんでした。今日も私は、こういう形でカウンセラーに精神科教育をする時代がくればよいのに、と思っています。それも新人ではなく、一定の経験を積んだ人が対象としてベターだと思います。外科医が手術を見て上達するように、精神科医は(そしてたぶんカウンセラーも)先輩の診察を見て成長するのです。
 しかし、現実には文科省資格を持つ心理カウンセラーはそのほとんどが教育界で、つまり登校拒否児の世話係として、パートタイマー的に働いておられるようです。精神科サイドでいえば米国精神医学の影響をうけて、認知行動療法という心理療法に軸足を移しつつあります。これは、国際的に見て多すぎる精神科病院の収容者数を減らそうという国策にも合致して、少しずつ盛んになりつつあります。この認知療法の背景にある心理学は昔ながらの伝統的な心理学で、カウンセリングを支えた力動・感情・全体心理学ではありません。
 認知療法が本来得意としたのは恐怖症・強迫症で、これらは「悪いクセ」であるから、それを修正するというのが基本姿勢でした。これに対し精神分析療法はヒステリーを対象として発展し、治療者との人間関係を作り上げてその上で患者の成長を計るという基本姿勢だ、と申し上げればその違いがはっきりするでしょうか(笠原嘉『精神科と私-二十世紀から二十一世紀の六十年を医師として生きて-』中山書店、2012年、pp.109-110)。


*日本のジャーナリズムは、こういう良心的な精神科医の意見は取り上げないようです。