親を分裂させる

ー「シャブを打ったらやさしいけど、酒をのんだらあばれて、金のない時はクズのチンピラにまでペコペコしてからに。どれがほんまのうちのおとうちゃんなんやろなあ。」(西原理恵子『(全)ぼくんち小学館、2003年、第29話より)


 精神科医中井久夫さんは、「精神健康の基準について」と題された文章で、まず第一に「分裂(spritting)する能力、そして分裂にある程度耐えうる能力」を挙げています(中井久夫『「つながり」の精神病理(中井久夫コレクション)』ちくま学芸文庫、2011年(初出1991年)、p238)。私は、子どもが「親離れする条件」として、中井さんのいう「分裂する能力」に加えて、「親を分裂させる能力、そして分裂にある程度耐えうる能力」を挙げたいです。NHK教育テレビの番組「ハートをつなごう」で「性的虐待」が特集された時(2012年1月30日・31日放映)、ある被害者女性が、自助グループに参加したことによって、「子どもの頃私のヒーローだった父親」と「思春期に私をレイプし続けた父親」をはっきり分けて考えられるようになり、回復できたと語っていました。これほど極端ではないにしても、「様々な親」を「分裂させる能力、そして分裂にある程度耐えうる能力」は、子どもの「親離れ」に不可欠な条件ではないでしょうか。