DV加害者男性と「おびえ」について
多くの男性は、妻に腹を立てて殴るのだと考えられています。もちろん、彼らはひどく怒っているのですが、実はそれだけではないのです。
もちろん、理由がどうあろうとも、妻を殴ることを正当化することはできません。しかしなぜ、多くの夫(男性)はなんの良心の呵責もなく平気で妻(女性)を殴れるのか。その理由は何なのでしょうか。
私がたどりついたひとつの推測は「おびえ」です。
彼らは、自分より下位にいるはずの妻が、夫としての立場を脅かすのではと予感されるときに、おびえを感じて妻を殴るのではないでしょうか。
「おまえはバカだから、かわいいよな」などと言われてニコニコしていた女性が、ある日、自分に対してノーを突きつける。そのとき、彼を襲うのは、「バカにされた」「ないがしろにされた」「恥をかかされた」という屈辱感であり、深いおびえなのです。
もちろん当人はそんなことを認めたくないでしょうが、私はそう思うのです(信田さよ子『傷つく人、傷つける人』集英社、2003年、pp.114-115)。
*信田さんの「推測」に男性の立場から補足をすれば、DV加害者男性にあるのは、単なる「おびえ」ではなく、「恥(shame)の感覚」と不可分に結びついた「おびえ」なのではないか、と思います。「妻子を殴る自分が恥ずかしくて、また殴る」という形で、アルコール依存症と同様、「恥」を中心に病理がめぐる(中井久夫)のだと思います。