<掟の門>または個人化した宗教

 ・・・彼は門を通る人ではなかった。又門を通らずに済む人でもなかった。要するに、彼は門の下に立ち竦んで、日の暮れるのを待つべき不幸な人であった(夏目漱石『門』初出1910年)。
 「誰もが掟を求めているというのにー」
 と男は言った。
 「この長い年月のあいだ、どうして私以外の誰ひとり、中に入れてくれといって来なかったのです?」
 いのちの火が消えかけていた。うすれていく意識をよびもどすかのように門番がどなった。
 「ほかの誰ひとり、ここには入れない。この門は、おまえひとりのためのものだった。さあ、もうおれは行く。ここを閉めるぞ」(フランツ・カフカ『掟の門』初出1914年)


*100年前にこんなことを考えていたなんて、漱石もそうですが、カフカはつくづくすごい作家です。