戦時性暴力と男性の生理

 強姦については、ある泌尿器科医に生理的に不可能ではないかと問うたところ、そのとおりで、われわれには理解できないという答えであった。相手の抵抗を打ち砕くための骨格筋活動の際には、格闘技の際にすべてそうであるようにペニスは萎縮している。そこで、萎縮するペニスに刺激を繰り返しつつ挿入するのであるという説と、相手が解離によって疑似的死(フリーズ)した場合に性行為を開始するという説もある(これでは屍姦である)。しかし、相手の抵抗によって性的に煽られる者もある。このような平時には犯罪者となっているものが戦争の際に主役を演じることは予想以上に多いだろう。一つの悪は百の善を帳消しにする。それは権力欲化した性である。なお、掠奪、暴力、強姦の際に「低いレベルの自己統一感」が生じることも無視できないであろう。スポーツの際には葛藤の棚上げによる統一感が生じるが、そのはるかな延長線上にあると考えてみると少しは理解しやすくなるかもしれない(中井久夫戦争と平和 ある観察」『戦争と平和 ある観察』人文書院、2015年(初出2005年)、pp.35-36)。


*戦争は、このような潜在的犯罪者を山のように発掘するのでしょう。