「女装する女」としてのモンロー

 女性を演じて成功した女優は、いくらもいる。しかし、女性という観念を演じて成功した女優は、めったにいない。マリリン・モンローは、そういた数少ない女優のひとりだったと、ぼくは考えている。
 モンローをセックスの象徴のように言う人がいるが、おおよそ誤解もはなはだしい。あの、くちびるをすぼめ、肉感にうるんだような、モンロー独特のスチール写真を見て、こみ上げてくる笑いを感じなかったとしたら、それはよほど愚鈍な人間である証拠だ。モンローは、そうした愚鈍とたたかうために、衣装を厚くするのではなく、逆にますます肉体をむき出しにしていかなければならなかった。そしてついに、刀折れ、矢つきて、死を選んだのだ(安部公房「モンローの逆説」『砂漠の思想』講談社学術文庫、1994年(初出1962年)、p239)。


マリリン・モンローは、ポストモダン的な「女装する女」の先駆者だったのかもしれません。