農耕社会とS親和者

 強迫的な農耕社会の成立とともに、人間は自然の一部から自然に対立する者となったとは複数の人々の指摘するところだが、私はそれと同時に分裂病者が倫理的少数者となったと言いたい。このときからS親和者は、社会にみずからを押しつけようとすれば、「上」へ向かうより他はなくなったようだ。古くは王、雨司、呪医、新しくは数学者、科学者、官僚などに。当然、多くの失調者が予想されよう。ビンズヴァンガーが分裂病者のおかれている事態を形容したverstiegenとは「進退谷(きわ)まるところにのぼってしまう」意というが、彼らの逃げ道は上にしか開かれていないのではあるまいか(中井久夫『新版 分裂病と人類』東京大学出版会、2013年(初出1982年)、pp.25-26)。


S親和者のひとりである私が、大学教員を職業に選んだのは、大正解だったようです。