増えるDV、摘発に壁
http://digital.asahi.com/articles/ASG3M5KMVG3MTIPE01R.html?iref=comtop_6_01 より転載
増えるDV、摘発に壁 被害届提出に抵抗感
配偶者やパートナーからの暴力(ドメスティックバイオレンス=DV)の被害が増えている。身近な人による犯罪だけに、情を断ち切れず被害届を提出しない人が目立つなど、摘発へのハードルも高い。福岡県警は、捜査員の増員に乗り出している。
「子どものしつけと一緒。言っても分からんなら体で分からせる、という気持ち」。交際相手の女性の首を絞めて包丁を突きつけたとして福岡県警に昨年12月に逮捕、起訴され、罰金刑を受けた福岡市の30代の男性会社員は、取材にこう語った。
捜査関係者によると、4年ほど前から交際し、同居を始めたのは約4カ月前。「結婚を断ったらハンマーで肩を殴られた」「包丁を持って『殺す』と言われた」……。女性は暴力に耐えられず、何度か警察署に駆け込んだ。署員が被害届を出すよう促したが、出さなかった。昨年12月の逮捕容疑は、被害届が必要のない暴力法違反だった。
警察がDVの相談を受けた場合、①被害届を受け事件にする②警告を出す③DV防止法に基づき、被害者への接近を禁じる「保護命令」を裁判所に申し立てる――といった選択肢を被害者に示す。深刻な事態になるのを防ぐため、①を勧めるのが一般的だ。
だが、報復を恐れたり、情を断ち切れなかったりして、被害届の提出を望まない女性は多いという。「初めて相談に来たほとんどの女性は、事件化に抵抗を感じるようだ」と、捜査関係者は話す。
1月3日から改正配偶者暴力防止法(DV防止法)が施行され、同居中か同居していた交際相手にも適用できるようになったが、被害者が事件化を望むのが大前提だ。大半は法的拘束力のない警告で済まさざるを得ない状況は変わらないとみられる。
■福岡県警が増員 自治体も対策強化
警察庁によると、DV被害の認知件数は急増しており、2008年は2万5210件だったが、13年は2倍近い4万9533件に増加。福岡県でも昨年は過去最高の1280件だった。
DV問題に詳しい郷田真樹弁護士は「『これはDVだ』という認識が社会に浸透した結果ではないか」と話す。相談窓口が増えたことも影響しているという。
警察庁は10年、宮城県で少年らが元交際相手の姉らを殺傷した事件を受け、全国の警察に対し、避難場所の確保や加害者の積極的な逮捕を求める通達を出した。
福岡県警はストーカー・DV対策として、今春から警察署への増員を決めた。捜査関係者は「被害者を完璧に保護しようとすれば常に警護をつけなくてはいけない。最悪の事態を防ぐためには、全署に専門の部署を作るなどといった対策が必要だ」と指摘する。
自治体でも対策が取られている。福岡県は昨年3月から、医療関係者向けに、DVを受けている疑いのある来院者の対応マニュアルを配布した。早い段階で異変に気付いてもらうことが狙いという。担当者は「起きてしまってからでは遅い。新たな被害を防ぐためにも、今後は中学生や高校生への早期教育がより重要になる」と話している。(渡辺知佳)
■中高生から学ぶ動きも
中学校や高校でもDVについて学ぶ動きがある。宮崎県の都城西高では5年前から人権学習でデートDVについて学んでいる。ある日の授業では、被害支援に取り組むNPO「ハートスペースM」代表の財津三千代さんが講演した。
殴る、怒鳴るだけがDVではない。携帯電話の中身をチェック▽服装や髪形を制限▽ネット上での中傷、映像の掲載……。当てはまることは多い。加害者にはラブラブ期、緊張期、爆発期のサイクルがあることが多く、被害者はその中でしだいに無力になっていくことが多いという。財津さんは「男女の交際が始まる10代にこそ教えなくてはいけない」と話す。(伊藤あずさ)