朝日新聞による「永遠の0」ヒットの理由

http://digital.asahi.com/articles/ASG2756M7G27UKJH00G.html?iref=comkiji_redirect&iref=comtop_list_cul_f02 より
「永遠の0」ヒットの理由


 映画「永遠の0(ゼロ)」(朝日新聞社など製作)が大ヒットしている。昨年12月の公開からロングラン上映中で、観客動員は600万人を超えた。太平洋戦争中、天才的な操縦技術を持ちながら臆病者とさげすまれた一人の零戦パイロットをめぐる物語。演出家として活躍するテリー伊藤さんと、タレントで大学講師の木村美紀さんに、鑑賞しての感想と、それぞれが考える「ヒットの理由」を聞いた。


 ■男のミーハー心を刺激 必死な愛刺さる 演出家・テリー伊藤さん


 ぼくにとって、戦争映画の中でも3本の指に入るほどの作品でした。とにかくVFX(視覚効果)が圧巻です。当時をできる限り忠実に再現したという艦隊や戦闘機はもちろん、空母の動き一つにしても零戦の飛行にしても、「こういうふうに動いていたのか!」とリアルに実感できる。男の中にあるミーハー心が刺激されました。
 ピュアな恋愛が描かれているのも、女性たちに受ける要因でしょうね。岡田准一くん演じる主人公が井上真央さん演じる妻と生まれたばかりの娘のために、ひたすら生きて帰ってこようとする。映画の中では1度しか会わない2人の、はかなくも必死な愛が刺さります。
 上映時間は144分もありますが、長さを感じさせません。それは、三浦春馬くん演じる現代の若者が、観客を戦争のあった時代へ誘うような構成になっているからでしょう。戦争を知らない若者が血のつながった祖父とはどんな人物だったのか、祖父の生きた時代とはどんな時代だったのかを探りあてていく。観客を現代と過去とを行き来させ飽きさせない。これが全編戦闘シーンだったら、観客の根気が続かないと思います。
 テレビは今、スーパー(字幕)が当たり前です。それがある種、ガイダンスになっている。この映画もまた、戦争を知らない若者がガイダンスの役割を担うことで、多くの人に見やすいつくりになっている。だれにでもわかりやすいこともまた、ヒットの勝因かもしれませんね。(坂口さゆり)


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 てりー・いとう 1949年、東京都生まれ。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」など多くの人気テレビ番組を手掛ける。「スッキリ!!」などに出演中。


 ■思い詰まった一言 「人としての軸」学ぶ タレント・木村美紀さん


 これほど心を揺さぶられた映画は初めてです。特に二つの要素が自分自身と重なり、心に響きました。
 一つは、主人公の妻・松乃の気持ちです。再び戦地へ赴く夫にかける「どうかご無事で」の一言に涙が止まりませんでした。そこには「行かないで」という思いが詰まっている。妻は夫を本当に必要としていても、その言葉を口にできなかったことでしょう。
 去りかけた夫は妻の気持ちを察して、必ず帰ってきますと約束します。それはあの時代における「愛している」の同義語。現代とは言葉の重みがまるで違う。愛する人を「守り抜く」という本当の意味を知った気がしました。
 もう一つ心打たれたのが教官としての主人公の姿勢。私自身大学教員でもあるので、岡田准一さん演じる宮部が教え子を守る姿勢に、人間としての軸を教えられた思いでした。彼は、飛行訓練中に事故で亡くなった教え子の名誉を守るため、上官に何度も殴られます。宮部には正しいことを正しいと言える勇気がありました。教えるとは単に知識を伝えることではない。教え子の未来をつくっていくことが教官の役目だと思いました。
 実は、映画を見る前からタイトルの「0」に興味がありました。0はどの数字を掛けても0。変わることがない最強の数字です。私にはそれが主人公のぶれない生き方と重なって見えました。彼の強い信念はきっと、永遠に引き継がれていくに違いありません。(坂口さゆり)


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 きむら・みき 1985年、東京都生まれ。薬学博士。東大在学中からテレビ出演、執筆活動など幅広く活躍する。現在、明治大学講師。


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 〈あらすじ〉 司法試験浪人中の佐伯健太郎は祖母、松乃の葬儀の日に、血のつながりがある「本当の祖父」がいたことを知る。
 その名は宮部久蔵。太平洋戦争で、驚異的な腕前を誇った零戦の操縦士だった。興味を抱いた佐伯は、宮部の戦友を訪ね歩く。だが耳にするのは、家族の元に必ず帰ろうと生に執着した「海軍一の臆病者」という酷評ばかりだった。
 そんな宮部が、なぜ最後には特攻を志願したのか。佐伯が諦めずに調べ続けると、驚くべき真実が明らかになる。
 原作は、百田尚樹のベストセラー小説。監督は「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの山崎貴。出演は岡田准一井上真央三浦春馬ら。


*この記事を書いた朝日新聞記者は、「ホモソーシャル」(男性間の非・性的な絆)という言葉すらしらないのでしょう。


永遠の0」と「男同士の絆」―愛と勇気とホモソーシャル
http://d.hatena.ne.jp/kkumata/20140124/p1