「本職患者」

 ここでちょっと補足しておきますが、患者さんを病人として扱う時に留意すべきことの一つに、彼らに病人としてのパーマネント・アイデンティティ(永久アイデンティティ)を持たせない配慮がありますね。トランジェント・アイデンティティ(一時的な自己規定)でとどまってもらう。そうしないで「本職患者」を作ってしまうと、(そういう患者さんが時々います)病気は治っても「患者」からは抜けだせない。この本職には何の報酬もありませんので気の毒ですし、医者も家族もみな困ります。本職患者を作らないということは精神科医の仕事である、いや医者すべてに共通した仕事であろうと思います(中井久夫「家族の臨床」『「つながり」の精神病理』ちくま学芸文庫、2011年(初出1985年)、pp.58-59)。


*「本職患者」とは言い得て妙だと思います。