アメリカの同性婚

http://digital.asahi.com/articles/TKY201206070635.html より転載
「米の同性婚になお壁 渡米の日本人「違憲」と提訴」


 米国で同性婚が改めて注目を集めている。オバマ大統領が初めて支持を明言したためだ。同性カップルの権利を認め、その結婚を法制化する州も少しずつ増える一方、同性婚を否定する国の法律が壁として立ちはだかる。愛する人と暮らすため、この壁に挑む日本人女性のもとを訪ねた。
 バーモント州南部、人口2千人足らずのダマーストン。上田孝子さん(57)は昨年4月、フランシス・ハーバートさん(51)と結婚し、この街で暮らしている。
 同州は2009年から同性婚を認めており、州法では男女の結婚と同じ権利だ。しかし、国の「結婚防衛法」は結婚を「男女間の関係」に限定しているため、米国に滞在するために必要な配偶者ビザは発給を拒まれた。この4月から、2人は同じように拒否された他の4カップルとともに、法の違憲性を主張する訴訟の原告となっている。
 2人が初めて出会ったのは、上田さんが留学生として渡米した33年前。一緒にいたのはほんの数カ月だったが、互いに強く印象に残り、上田さんが帰国して日本の男性と結婚した後も、ずっと文通を続けた。
 転機は、ハーバートさんが日本を訪れた1999年だった。20年ぶりの再会に「最初はどきどきして、顔を合わせられなかった」。3週間の旅行を終えハーバートさんが帰国した後、上田さんは決心する。「夫と別れ、アメリカでフランシスと暮らしたい」
 離婚して翌年渡米し、ハーバートさんの家に転がり込んだ。その秋には友人らに囲まれて互いに愛情を誓い合った。バーモントの生活は不慣れなことばかりだったが、「ようやく、鳥かごから出られた気分」と、幸せな気持ちでいっぱいだった。
 だが、米国での滞在は次第に困難になってきた。当初は短期滞在ビザを取得し、その後は大学に通って学生ビザを得たが、いずれのビザも永住を保障していない。職探しも思うように進まなかった。万策尽きて、もう帰国するしかないかとも考えたが、支援団体への相談がきっかけで正式に結婚し、「同性婚を認めない結婚防衛法は違憲」と提訴に踏み切った。
 昨年12月には、国外退去を求める通知が米国政府から届いた。訴訟などを考慮し、5月に2年間の滞在許可が出されたものの、不安は残る。でも、自分たちが一歩を踏み出すことが、他の人にとっても力になるという励みもある。
 「日本では、人と違う生活をすることが怖かったけれど、自分に正直に生きることがどれだけ大切か、よく分かった」と上田さん。「ここまで来られたのは、多くの人の力があったから。今後も頑張っていきたい」と話す。

■大統領選の争点にも
 同性婚は、オランダやベルギー、スペインなど欧州では比較的多くの国々で認められている。アイスランドのシグルザルドッティル首相は、長年連れ添ってきたパートナーの女性作家と正式に結婚し、初の同性婚の国家首脳となったことで知られる。
 米国ではバーモントなど6州と首都ワシントンDCで認められている。しかし、96年に制定された「結婚防衛法」の適用範囲は、配偶者ビザだけでなく、税金の控除や公的年金の受け取りなど、連邦政府が所管する分野全体に及ぶ。そのため、州が認めた婚姻にもかかわらず、様々な不公平が起きている。法律の無効を求める訴訟がこれまでも複数起こされ、違憲判決も出ている。
 5月31日には連邦高裁が「同性婚を認める州の決定を妨げる権利は連邦政府にない」と、高裁レベルで初めてとなる違憲判決を言い渡した。もっとも、同じ判決で「問題を決着させることができるのは最高裁だけだ」ともしており、判決によって同性婚カップルの状況がすぐに変わるわけではない。
 11月の大統領選でも争点になりそうだ。オバマ大統領は5月9日のテレビインタビューで「同性愛者のカップルが結婚できるようにすべきだ、という結論に達した」と語った。これまでもオバマ氏は結婚防衛法は「法の下の平等に反する」とし、訴訟で原告側と争わないと決定するなど賛成の姿勢を示してきたが、大統領として初めての明言だった。
 一方、野党の共和党は反発を強めている。一連の訴訟では同党が過半数を占める下院が、被告の立場から「結婚防衛法は合憲」との主張を続けている。大統領候補に内定したロムニーマサチューセッツ州知事も「結婚は男女間のものだ」と反対の立場を明確にしている。
 世論調査では、有権者の50%以上が同性婚を法律で認めることに賛成している。だが、世論調査の結果と投票行動が必ずしも一致しないのも、この問題の特徴の一つ。これまで州レベルの住民投票はすべて反対派が上回り、半数以上の州が憲法や法律で禁じている。11月には少なくとも4州で是非を問う住民投票が大統領選と同時に実施される見通しだ。(ダマーストン=中井大助)
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 〈米国の同性婚〉 米国では、結婚に関する法律は原則として州ごとに定められている。同性婚については、2003年にマサチューセッツ州最高裁が「禁止することは州憲法に反する」という判決を言い渡し、同州が翌年から認めたのが最初となった。ただ、1996年に制定された国の「結婚防衛法」は、結婚を男女間の関係に限定している。

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