自閉性障害とジェンダー

http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/health/CK2011061402000066.html より転載
自閉性障害 女子の支援 配慮を


 アスペルガー症候群など自閉性障害の女子への支援について、関心が高まってきた。発達障害者支援法ができて七年。早期発見や特別支援教育の体制は次第に整ってきたが、女子の障害は男子に比べ診断されにくい。友達同士の「ガールズトーク」の輪に入れずに疎外感を抱くなどして、不登校にもつながりやすいという。(編集委員・安藤明夫)


 愛知県を中心に活動する発達障害の支援機構「アスペ・エルデの会」は、七年前から定期的に「女の子のグループ」を開いている。小学生から二十代までのアスペルガー症候群などの女子が、おしゃべりを楽しんだり、買い物をしたり、趣味の合う子と一緒に映画を見に行ったりする。
 ここでは「空気が読めない」などと批判されることもない。自然な会話の練習なども組み込まれている。
 同会統括ディレクターの辻井正次・中京大教授(発達臨床心理学)は「疎外感、孤立感を持たずに過ごせる場が必要。各地のグループは男子ばかりで、女子の場が乏しい」と話す。
 自閉性障害の男女比は、四対一で男子が多いとされているが、「診断されずに見過ごされている女子も多い」と考える専門家も増えてきた。
 辻井教授は「自閉性障害の子が混乱したとき、男子はパニックを起こすが、女子は硬直してしまう。反応が内向きなため、思春期の悩みと混同されたりして、なかなか診断されない」と話す。友達との会話がうまくできなかったり、いじめを受けるなどして不登校につながる例も多く、時には自殺未遂に至るケースもあるという。
 同会は、その子が人間関係の中で理解できていること・できていないことを把握したうえで、社会技能を身に付ける訓練を取り入れている。親も娘の障害に気付いていないことが多く、親への指導も重要になる。  

 三月初め、女子の自閉性障害の研究・治療で知られる米国のシャナ・ニコルズさん(臨床心理士)が、辻井教授らの招きで来日し、各地でセミナーを開いた。
 女子の自閉性障害が診断されにくい理由について、ニコルズさんは「研究はまだ進んでいないが、障害の現れ方に明らかな違いがある。女子は表情など言語以外の手掛かりを読み取ることが得意。自閉性障害の女子も周りの反応を気にして、自分の問題を小さく見せようとしているのでは」と話す。
 特に思春期には、“仲間はずれ”などのいじめを受けて深く傷ついたり、性的な危険を察知できないなどの問題があり、女子特有の支援が必要になる。
 ニューヨーク州にあるニコルズさんのクリニックでは、成人・思春期の女子の治療や、友達づくり、社会技能訓練、工芸、買い物、大人の女性になっていくためのガールズトークなどのグループ活動を取り入れている。
 社会技能を高めるために、親や友達などをモデルにして「学んでほしい行動」を具体的に説明したり、いじめなどの被害防止教育も行っている。娘の思春期に備える親のグループワークもある。
 ニコルズさんはクリニックでの診断、治療計画などについて説明し、「日本でも、男女の違いを理解した支援に取り組んでほしい」と要望した。
 <自閉性障害> 発達障害のうち、アスペルガー症候群高機能自閉症自閉症(カナータイプ)を合わせて「自閉性障害」と呼ぶ。
 アスペルガー症候群は、知能や言葉の遅れがないのに、社会性に欠けたり、コミュニケーションの困難さ、興味の偏りなどを持つのが特徴。高機能自閉症は、アスペルガー症候群とよく似ているが、幼児期の言語発達に遅れがある。自閉症は、知的障害などを伴う。
 障害の早期診断・療育・教育・就労・相談体制など支援の確立を目指して、二〇〇四年に発達障害者支援法が制定された。各都道府県にある発達障害者支援センターが相談窓口になっている。
 アスペ・エルデの会の問い合わせは、同会のホームページから。