現代人の悩みと森田療法

 つまり、現代社会では、森田の時代のようなはっきりとした表現をもつ神経症(典型的な森田神経質)が減って、境界のはっきりしない不安、恐怖、抑うつを訴える神経症(現代的な森田神経質)が増えてきました。そして自分はなに者で、どのように生きていったらよいのか、という自分自身を形成していく途中での挫折という形をしばしばとります。やはり自分のあり方、生き方をめぐる深刻な悩みが中心になってきます。
 それとともに現代の悩める人たちはしばしば自己愛的であります。頭でっかちで自己中心的、他人に対して共感できにくい人たちがふえてきたようです。そのような自己愛的な人は自分の感情、身体、周囲の人間関係を自分の思うようにコントロールしようと試みます。そのような人たちは、家族をふくめた他者と対人関係を維持し、それを深めていくことが苦手なようです。しかし自分のなかにある自然、あるいは現実をコントロールしようという試みは容易に行きづまります。また助けを求めたとしても、治療者の対応に傷つきやすく、怒りや落ち込みで反応してしまいます。このような現代の森田神経症のは、しばしば伝統的な森田療法では対応が困難となります。
 ではこのような人々に対して、森田療法は対応が可能でしょうか。私は可能だと考えます(北西憲二『実践 森田療法ー悩みを生かす生き方ー』講談社、1998年;11-12)。


*「頭でっかちで自己中心的な」自己愛的人間という表現は、自分にも思い当たる点があります。