痴漢「アラブの春」で表に噴出 

http://digital.asahi.com/articles/TKY201307250121.html より転載
痴漢「アラブの春」で表に噴出 警察頼れず自衛も


 最近まで、エジプトでセクハラや痴漢は深刻な問題ととらえられなかった。刑法に罰則はあるものの、被害の証拠を示さなければ法律が適用されなかった。


 女性が性的被害を受けたことを家族が「恥」として隠す風潮があり、被害を訴える女性もまれだった。バスに乗車中に運転手に閉じ込められ、被害に遭った女性(20)は「事件後、家族が家から出してくれなかった」と明かす。
 風向きが変わり始めたのは2005年ごろ。10年には、セクハラをテーマにした映画も発表された。その後の「アラブの春」が、女性たちの怒りに火をつける。11年2月、ムバラク政権崩壊につながったカイロ・タハリール広場の民衆デモで、女性がセクハラや性的暴行に遭う事件が相次いだ。米CBSテレビの女性特派員も暴徒に襲われ、世界中の非難を浴びた。
 デモ中の被害は後を絶たず、国際NGOのまとめによると、ムルシ前大統領の辞任を求めるデモでは今年6月末からの4日間で、数件のレイプ事件を含む91件の性的被害が報告された。
 なぜ今、被害が急増しているのか。革命で警察組織が崩壊し治安が悪化したことや、モラル・宗教心の低下が指摘されている。勇気を出して声を上げる女性が増えたことも一因だ。
 女性国民評議会のナグラ・アドリ氏は「エジプトの女性は長い間、不平等な扱いを受けてきた。特に政治の分野への女性の進出が遅れ、結果として女性を取り巻く問題への対処が置き去りにされてきた」と見る。
 同評議会は5月、女性の人権を保護する法整備の草案を法務省に提出した。セクハラに対する罰則強化や、農村部で多い女性の早婚を制限するといった内容だが、政治の混乱で成立の見通しは立っていない。


■防犯マップに情報続々


 警察も法律も頼れないなら、あとは自衛しかない。
 合気道2段のサマフ・イブラヒムさん(45)は、約2年前から女性向けの護身術教室を始めた。「相手を攻撃するのは勇気がいる。動作に自信を持つまで練習するのが大切」。週2回、カイロ市内にあるスポーツクラブで20〜40代の女性約15人に教える。月謝は200エジプトポンド(約2800円)。貧困層の女性向けに無料の講習会も時々開く。「相手がナイフなどを持っていることもある。警察も誰も助けてくれない。自分の手で自分を守るしかない」とサマフさん。
 10年設立のNGOハラス・マップは、携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)を利用し、セクハラ被害に遭った女性から情報を収集。どの地域でどのような被害が発生しているかを地図にして、インターネット上で公開し、女性たちが外出する際の安全対策の参考にしてもらう。
 メンバー11人と約500人のボランティアが、カイロやアレクサンドリアなどの都市部を中心に活動する。1日に数百もの情報が入るという。メンバーのノハ・ヒシャムさん(29)は、不況や若者の結婚難を理由にセクハラを正当化するのは、男性のばかげた理論だと言い切る。「セクハラにはもううんざり。男性の言い訳をこれ以上許してはならない」